2017.11.11
あり得なかった“近未来”の、さらにその先を創る
『ブレードランナー2049』を作るにあたって、ヴィルヌーヴとディーキンスのコンビは35年かけて熟成されてきた『ブレードランナー』伝説に立ち向かわねばならなかった。もし仮に100%オリジナルの映像スタイルや世界観を踏襲できたとして、技術的には偉業であるにも関わらず、作品の評価としては絶対に“ただの二番煎じ”と言われてしまう。逆にオリジナルとは別物と割り切って独自の路線を突き進んだとしても、「だったら『ブレードランナー』を名乗るな」とファンに激怒されるのがオチである。
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また、『ブレードランナー2049』の奇妙さ、設定上では前作の2019年から30年の歳月が流れたことになっていること。オリジナルの『ブレードランナー』が作られた1982年の時点で、『ブレードランナー』は近未来SFとして作られた。当時から27年後の地球が、一体どんなに姿になっていて、どんな技術が実現しているのかを、分析と想像に基づいて考え出されたのが『ブレードランナー』で描かれる2019年のロサンゼルスだったわけだ。
『ブレードランナー 2049』
ところが現実の世界では2017年を迎え、作り手も観客も『ブレードランナー』のような未来はやってこないことをとっくに知ってしまっている。人間と見紛うようなレプリカントは実現してないし、街中を飛んでいる自動車もいない。酸性雨に振り込められ、陽光を失ったロサンゼルスも存在していないし、何よりも日本人はあれほど世界に散らばっていない。つまり『ブレードランナー2049』が描いている2049年は、あり得るかも知れない未来像ではなく、あり得なかった架空の2019年の先にある、現実とはさらにかけ離れたファンタジーの未来なのだ。
ちょっと想像してみるだけでも、なんと途方もない雲をつかむような作業かと思わざるを得ない。ヴィルヌーヴとディーキンスは『ブレードランナー』の世界を完全に咀嚼した上で、何の道標もないままにさらに30年先の世界を創り上げねばならなかったのだ。そこで1つの重要な指針になったのではないかと思われるのが、劇中では2022年の出来事として語られる「大停電」事件である。