サブカルの流行を反映した、アイテムへのマニアックなこだわり
こうした一見、雑多なイメージをすんなり受け入れてしまう大きな要因も、『ディーバ』は備えていた。それは全編にあふれる印象的な「アイテム」と特異な「キャラクター」ではないか。
『ディーバ』を観たほとんどの人が、強烈に記憶にやきつけるのは、主人公ジュールを助けるゴロディシュという男のアパルトマンだ。「波を止めること」を夢みていて、フランスパンで禅の思想を解くという謎めいたギリシャ人、ゴロディシュ。だだっ広い空間にバスタブと洗面台が唐突に置かれていたりして、80年代のNYでアーティストが好んで住んでいたロフトを思わせる彼の部屋。
同居するベトナム系少女のアルバがローラースケートで動き回り、ゴロディシュは巨大なジグソーパズルに取り組むのが日課。「ウェーブ・マシーン」という波を作る不思議な装置も置かれている。
『ディーバ』(c)Photofest / Getty Images
その他にも郵便配達人のジュールが乗るモビレット(原付自転車)、ゴロディシュがなぜか2台も所有しているシトロエンのトラクシオン・アバン11CV、さらにジュールが盗み録りで使うのが、スイスのNAGRA社のハイファイ録音再生機器だったりと、やたらとマニア心をくすぐるアイテムが出てくる。
思えば、サブカルチャーという言葉が広く流行したのが、1980年代。マニアックな「モノ」への偏愛はサブカルの重要パートであり、1981年の『ディーバ』は、映画としては早い時期にそのブームを反映していた気がする。
しかもモビレットの「黄色」、その後、ジュールが借りるバイクの「赤」、シトロエンや、ジュールが盗むシンシア・ホーキンスのドレスの「白」、ゴルディシュのアパルトマンの「ブルー」、アルバのレインコートの「ピンク」と、個々のアイテムの色が過剰に強調されるので、その存在感が際立つのだ。
凱旋門の向こうにジュールとシンシアのシルエットが浮かぶブルーの映像など、美しさも尋常ではない。こうした色へのこだわりは、ジャン=ジャック・ベネックスの続く作品『溝の中の月』(83)、『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(86)で、さらに際立っていく。