『ディーバ』あらすじ
郵便配達員のジュールは、ソプラノ歌手シンシア・ホーキンスのファンで、彼女のコンサートを盗み録りする。そんなとき、ジュールの自転車に売春組織の内幕を暴露した告白テープが隠された。存在しない筈のコンサートのテープと売春組織の秘密が録音されたテープ2本を巡って、彼はパリの町を逃げ、やがて迷路に迷い込んでゆく……。
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フランスでは予想を超える135週ものロングラン
1981年、フランス国内でも当初はそれほど話題にならなかったものの、公開されるや異例のロングランを記録する作品が現れた。なんと、その期間は135週!3年近くもの間、人々の足を映画館に向けさせたのが、『ディーバ』だ。
フランス映画といえば、1950年代末から1960年代に至るヌーヴェルバーグで一時代を築いた後、新たな潮流が待たれていたわけだが、そのきっかけを作ったのが『ディーバ』だと、多くの人が指摘する。監督はジャン=ジャック・ベネックス。この後の1983年に、リュック・ベッソンが『最後の戦い』を、そしてレオス・カラックスが『ボーイ・ミーツ・ガール』(84)と、長編監督デビューを果たし、フランス映画界に新たな波が起こることになる。
彼らの作品は、明らかにエッジの効いた大胆なアプローチで、国境を超えて日本の映画マニアも虜にしていくのだった。
『ディーバ』予告
『ディーバ』の何が新しかったのか? それぞれ初めて観たタイミングで感じ方が違うだろうが、第一に挙げられるのが、ジャンルを超えたスタイルではないか。
自分の歌声を決して録音させないことで知られる人気オペラ歌手のシンシア・ホーキンス。大ファンである郵便配達人のジュールは彼女のコンサートで、その歌声を盗み録りする。さらにジュールは売春組織の重要な情報が録音されたテープを偶然、手にしてしまう。2つの極秘テープを巡る攻防と、ジュールのホーキンス(=ディーバ)への愛が綴られる。
基本は犯罪サスペンスなのだが、全体のムードがさまざまな方向へ変化していく感覚。そして、その多彩なムードが化学反応を起こし、映画を成功に導く。『ディーバ』はその最たる例だという気がする。予想不能のストーリーに、突然、投げ込まれる謎めいたシーンや幻想的なカット。ヒッチコック映画を思わせるスリリングな演出。それらがひとつのうねりを形成し、どこか寓話的な魅力さえまとわせるのである。