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『ディーバ』フランス映画界に新たな波を起こした、ジャン=ジャック・ベネックスの長編デビュー作

(c)Photofest / Getty Images

『ディーバ』フランス映画界に新たな波を起こした、ジャン=ジャック・ベネックスの長編デビュー作

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濃厚なキャラクターたちが、現在のダイバーシティを予言



 もうひとつのキャラクターの面でも、強烈なインパクトを与える人物が並ぶ。どういう関係なのか想像力をかき立てるゴルディシュとアルバはもちろんだが、ジュールを追う殺し屋2人組が、一度観たら忘れない、濃厚キャラである。劇中では「カリブ海」と「坊主刈り(スキンヘッド)」と呼ばれるが、とくにスキンヘッドの言動がやたらと奇妙で鮮烈だ。


 その名のとおりの髪型に、ファッションはパンク。サングラスで目の表情は見えない。つねに右耳にイヤホンを付けて、シャンソンを愛している。そして口癖は「あいつキライだ」。ほぼ、それしか口にしない。その独特の存在感から、ポスターでは他の人物より大きく扱われたりして、『ディーバ』の影の主役と言っていいほど。演じたドミニク・ピノンは『溝の中の月』、『ベティ・ブルー』とベネックス作品に続けて出演した後、『デリカテッセン』(91)でジャン=ピエール・ジュネ監督作の常連となり、『アメリ』(01)にも出演した。


 そしてキャラクター全体を眺めて感じるのは「非白人」の割合の高さである。これは当時のフランス映画でも珍しいレベル。ゴルディシュと同居するアルバはベトナム系。シンシア・ホーキンスに接触するレコード会社の男たちは台湾系。そのシンシア自身、そしてジュールが助けを乞う娼婦は黒人である。まるで現在のハリウッド映画のようなダーバーシティ(多様性)だ。公開当時は、この非白人率が新鮮だったが、現在の映画では日常風景。ある意味、予言的でもある。



『ディーバ』(c)Photofest / Getty Images


 シンシア役のウィルヘルメニア・フェルナンデスは、パリのオペラ座の1979~80年のシーズンに、プラシド・ドミンゴら大物を相手に「ラ・ボエーム」の主役の一人を演じた、オペラ界の実力派。その評判により、『ディーバ』に抜擢され、劇中の歌声は彼女自身のものである。


 そしてジュールを演じたフレデリック・アンドレイだが、これだけ多くの人に愛された作品で主役を務めながら、もともと監督志望だったようで、『ディーバ』の後にいくつかのTV映画に出演して、短編で監督業の経験を積んだ。しかし満を持して撮った長編作品が成功とはならず、映画界から姿を決してしまったという。『ディーバ』がフレデリックにとって、唯一の「輝き」となったわけである。


 ジュールが乗ったバイクがメトロの構内を走りまくるなど、オペラ座、コンコルド広場、サン・ラザール駅などパリの風景も、ひとつの主役と言っていい『ディーバ』。そしてオペラが重要パートなので音楽も……と、見どころを語りつくせないことも、この映画が時を超えて愛される理由であろう。



文: 斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。



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