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『リトル・ダンサー』「故郷」×「初期衝動」×「旅立ち」。バレエ少年の物語に秘められた、心震わせる鍵

(c) Photofest / Getty Images

『リトル・ダンサー』「故郷」×「初期衝動」×「旅立ち」。バレエ少年の物語に秘められた、心震わせる鍵

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“心に電流がほとばしる瞬間”が持つ普遍的な魅力



 この映画を彩る要素は、その一つ一つが極めて魅力的だ。「炭鉱町」という設定は過ぎ去りし時代の一部として悲哀も含めて語るべき価値があるし、「男の子のバレエダンサー」がいかにしてその情熱に目覚めたのかというエピソードにも煌めきがある。そしてなお、これらを互いに掛け合わせることで威力は倍加し、大きな化学反応が私たちを飲み込んでいくことになる。中でも印象的なのが「踊っている時はどんな感じ?」と聞かれたビリーが「なにか電流が走ったみたいになる」と答えるシーンだ。 


 その瞬間、観る者の心は強烈なまでに共鳴する。誰にだってきっと、このような人生を突き動かすほどの「電流」を感じる瞬間が、一度や二度、あるはずなのだ。自分がまだ何者かも分からない頃に経験する、新たな世界や価値観との出会い。思いがけない才能の目覚め。逆境を乗り越えて押し開く、運命の扉――――その骨格はまさに普遍性に満ちた人生の「エピソード・ワン」と言えるのではないか。 


 本作はかくも少年がバレエダンサーを目指すという唯一無二の物語でありながら、その深部を成すのは、実は誰もが身に覚えのある“情熱の初期衝動”なのだ。だからこそ、観る側はそこに映し出されるストーリーやキャラクターを存分に堪能しつつも、心の奥底では、まだ何者でもない主人公への共感がとめどなく湧き上がり、私たちはこの映画の深い感動に飲み込まれることになる。 


 ある人は自分自身を重ね合わせ、またある人は親の心情になって子を思う。歳を経れば経るほどその視点は多様化し、その都度『リトル・ダンサー』の味わい方は変わっていく。そこもまた本作が持つ大きな魅力であり、この映画がずっとマスターピースとして輝き続けるゆえんなのだろう。 



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