ロケット青年の旅立ちを描く名作『遠い空の向こうに』
全く同じ「故郷」、「初期衝動」、そして「旅立ち」といった構造を持つ映画をご紹介しよう。『リトル・ダンサー』とほぼ同時期に製作されたアメリカ映画『 遠い空の向こうに』(99)である。
舞台は50年代、米ヴァージニア州の炭鉱町。ソ連の人工衛星に魅せられた高校生たちがお手製のロケット作りに奔走する物語だ。『リトル・ダンサー』の舞台である80年代では、すでに炭鉱業そのものが下火となっているが、50年代となるとまだまだ好調な頃合い。そんな中で、たくましい父親の背中を見ながら育ってきた青年の身にも、ビリー・エリオットのような「電流が走ったみたい」な瞬間が訪れる。日に日に募っていくロケットへの想い。その情熱が次第に周囲を突き動かしていく。善き仲間に恵まれ、教師からも導かれ、さらに両親の理解も勝ち取っていく主人公。これは後にNASAのロケット開発の最前線に立つことになる実在の技術者の「エピソード・ワン」の物語である。
見るからに『リトル・ダンサー』と同じ軌跡を持ちつつも、取り扱う題材が異なるだけでこんなにも豊穣かつ唯一無二の物語となって、人々の心を突き動かすのだから驚きだ。こういった種類の映画が求心力を放つのも、我々が人生の「エピソード・ワン」を描いた物語の魅力に本能的に抗うことができないからなのだろう。
さらにこの映画は作り手も素晴らしい。監督のジョー・ジョンストン(『 ジュマンジ』、『 キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』など)はILMの創設スタッフとして数々のVFXに携わってきた人で、その技術とストーリーを巧みに融合させる手腕の高さでも知られる。本作でもヒューマンドラマの中、ロケット発射などの場面でピンポイントにVFXを差し込ませるあたり、とびきりのセンスを感じずにいられない。この辺りも本作が「知る人ぞ知る名作」としてファンの心をつかんで離さない要因といえそうだ。
誰しもの心を奮い立たせてやまないこれらの作品たち。大人になると心が折れることや初心を忘れそうになることも多いが、『リトル・ダンサー』や『遠い空の向こうに』を観ていると、自ずと背筋がまっすぐになり、初期の純粋な気持ちへと舞い戻ることができる。これもまた映画が持つ大きな力である。たとえバレエは踊れなかったとしても、私たちは誰もが、いくつになっても情熱を燃やし、現実と闘い、躍動を続けるビリー・エリオットなのだ。そうであると願いたい。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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