2018.08.20
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アイルランドを舞台にした音楽映画の先駆的存在
ジョン・カーニーが監督・脚本を務めた音楽映画3本のうち、『ONCE ダブリンの街角で』(2007)と『シング・ストリート 未来へのうた』(2016)は、彼自身が生まれ育ったダブリンを舞台にしている。今や世界の現役監督の中で屈指の音楽映画の作り手と目されるカーニーだが、アイルランドの音楽映画と言えば必ずタイトルが挙がる傑作がある。それが『ザ・コミットメンツ』(1991)だ。
ダブリンに住む音楽好きの若者がメンバーを集めて編成したソウルバンド、ザ・コミットメンツの奮闘と挫折を描く同作はギネス世界記録によると、米国での興行収入約1500万ドルはアイルランド出資の映画として歴代1位。また、2005年にアイルランドで1万人以上が投票した「歴代最高のアイルランド映画」ランキングでも、堂々の1位を獲得している(ジェイムソン・ウイスキーが実施。)
ただし、カーニーは『シング・ストリート』のプロモーション時期に受けたインタビューの中で、こう論評している。
「『ザ・コミットメンツ』は素晴らしい脚本だったし、原作も実に愉快だが、問題は彼らがカバーを演奏していたこと。創造性はどこに行ったんだ? 僕らが学校でやっていたバンドだって曲を書いていたのに」(引用元:THE IRISH TIMES)
※画像は『シング・ストリート 未来へのうた』
このコメントは、自らバンド活動を経験したカーニーが、アイルランドを舞台にした音楽映画の先駆的な作品を強く意識していたことをうがわせる。そして実際、『ザ・コミットメンツ』には、「カバーかオリジナルか」という点以外にも、カーニーが意識せざるをえない要素がいくつもあるのだ。