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『シング・ストリート 未来へのうた』のジョン・カーニー監督が傑作『ザ・コミットメンツ』を意識した理由
2018.08.20
パーカーを尊敬しながらも超えようとする意志
『シング・ストリート』は、パーカーが初めて脚本を書いた『小さな恋のメロディ』へのオマージュにもなっている。大人びた女の子との恋、規則で生徒を抑圧する権威的な教師、保守的な常識人から頭ごなしに否定される夢、大人の支配に対する痛快な反撃、そしてラストのファンタジックな「旅立ち」――。カーニーは自身の体験を土台にしつつも、大筋で『小さな恋のメロディ』をなぞるようなストーリーを組み立てた。
『シング・ストリート 未来へのうた』© 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved
音楽映画の作り手としてのパーカーに敬意を表しつつも、カーニーは偉大な先達に追いつき、追い越そうとしているのではないか。『シング・ストリート』のコナーは、兄ブレンダンからこんなアドバイスを授けられる。
(デュラン・デュランの『リオ』のPVを見ながら)「永遠の作品だ。音楽と映像のこの完璧な融合。簡潔で明快だ」
「パブでも結婚式でも、どこでもカバーバンドが出るが、ヤツらオヤジは真剣に音楽をやったことなんかない。曲を書く根性もない。ロックは覚悟を持て」
ブレンダンの台詞は、カーニーの映画作りを代弁しているのだろう。音楽と映像の完璧な融合は重要な到達点だが、オリジナルの劇中歌でそれを実現することでさらなる高みを目指す。
思えば、優れた音楽映画の多くは印象的なオリジナル劇中歌を伴う。『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)しかり、『君が生きた証』(2015)しかり、そして『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018)しかり。『シング・ストリート』は『ONCE』とともに、そうした傑作音楽映画リストの中に間違いなく加えられる。カーニーが今後も追求を続け、いつかアイルランドのみならず、世界最高の音楽映画を作ってくれることを願ってやまない。