『サンダーロード』との強いリンクを感じさせる2本の短編作品
最後に『サンダーロード』をご覧になった人に、カミングスが関わった二本の短編を紹介したい。ひとつ目は、カミングスが監督と共同脚本を手がけた『The Robbery』という2017年の作品だ。
『The Robbery』
『サンダーロード』のオリジナル短編と同様にワンシーンワンカットで撮影された本作は、Uberに乗った若い娘がやらかす行き当たりばったりのコンビニ強盗を、ドタバタ劇として描いたもの。やむにやまれぬ切迫感と、身もふたもないバカバカしさの併せ技で、可笑しくも哀しき情感を醸し出す作風は『サンダーロード』にも通じるカミングスの独壇場だ。
そして言い添えておきたいのが、主人公の娘の名前が「クリスタル」であること。クリスタルといえば、『サンダーロード』のジェームズが絆を築こうと奮闘する愛娘の名前と同じなのだ。同一人物と名言されているわけではないが、まだ幼かった『サンダーロード』のクリスタルが、あの環境で、あの父親のもとで育っていけば、いかにもありえそうな未来である点が実に感慨深いのである。
二本目は、これまたカミングスのエマーソン大学の同窓で、『サンダーロード』にはクリエイティブ・ディレクター兼サウンドデザイナーとして参加した映像作家ダニー・マッデンによる短編『The STOP』(18)。カミングスは、出演と共同脚本という形で参加している。
『The STOP』
こちらの内容は、ドライブ旅行に出た若者3人が夜道で警察に止められる珍妙な10分間を、リアルとファンタジーを織り交ぜながら描いたもので、『The Robbery』と同じく、ワンシーンワンカットのスタイルで制作された『The Minutes Collection』というシリーズの一遍である。
そしてこの短編で、カミングスはまさに『サンダーロード』と同じ出で立ちで警官役を演じているのである。一見生真面目だけど実ははた迷惑というキャラも『サンダーロード』そのままで、スピンオフとしても楽しめる趣向なのだ。
カミングス、マッデン、そして『The Robbery』『The STOP』の両方に共同脚本で参加しているダスティン・ハーンは、まるでチームのようにお互いをサポートしながら創作活動を続けている。これからのアメリカのインディペンデントシーンを牽引するであろう一勢力として、今後も要注目の存在であることは間違いない。
参考記事:
http://moveablefest.com/jim-cummings-thunder-road-interview/
https://vimeo.com/blog/post/behind-the-video-sundance-winning-thunder-road/
http://www.doubletakemagazine.org/mag/html/backissues/12/steen/index.html
文:村山章
1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。
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『サンダーロード』
2020年6月19日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開