主人公は透明人間ではなくその元恋人
ミーティングで、リー・ワネルは一気にまくし立てた。新たな『透明人間』が、低予算で製作されることや、過去の『透明人間』とも、他の”ダークユニバース”とも完全に一線を画す、独立した作品であったことは勿論だが、その後に続けた独自のアイディアが、幹部たちを唸らせる。
ワネルのアイディアはこうだ。主人公を透明人間にするのではなく、彼と親密な間柄にあった恋人のセシリアにすること、セシリアが自殺したはずの元恋人の気配を感じ、恐怖を感じるプロセスに物語の主軸を置くこと、そして、透明人間を可能な限り透明のまま描くこと!!
『透明人間』(c) 2020 Universal Pictures
ヒロインのセシリアは、富豪で天才科学者の恋人エイドリアンの執拗な拘束から逃れるため、断崖絶壁に建つ豪邸から脱出する。直後、セシリアの元に、エイドリアンが莫大な遺産をセシリアに残して自殺したという衝撃の知らせが届く。しかし、彼女はそれを信じなかった。エイドリアンが自殺するはずはない。その疑惑はやがて確信に変わっていく…。
ワネルの脚本は、束縛から逃れたセシリアが、依然、見えない何かに縛られ追い詰められるも、やがて、意を決して反撃に転じていく様子を、女性目線で描き切っている。そこが、多くの批評家から、#MeToo時代に呼応した最新最強のホラー映画と評される所以だ。