(c)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』苦難の道のりを乗り越え、アニメに通じる世界観を貫いたジョージ・ミラー
2020.07.21
人類に語り継がれる英雄神話の世界
そのイモータン・ジョーの最初のデザインを手がけたのは、日本人アーティストの前田真宏である。コンセプト・アート・アンド・デザインというクレジット。
ジョージ・ミラーは、「マッドマックス」4作目の進行がままならない時期に、アニメ版、およびゲーム版の製作も構想しており、そのサポートとして前田氏が招かれたのが、コラボレーションのきっかけだったという。ミラーが、マッドマックスにアニメ的世界を合体させたかったようだ。
「私はオーストラリアのアウトバックにある辺鄙な街で幼少時代を送り、夢中になるものは映画と漫画くらいしかなかった。『マッドマックス』の1作目で初めて日本へ行ったとき、多くの漫画やアニメに触れることで感激し、そういったものを作る日本のアーティストに異常な親近感をおぼえた。それから自分がアニメーションを手がけるようになって、日本のアニメや漫画の優雅さ、効率、美意識に大いに影響されてきたんだ。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(c)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観ればわかることだが、無駄を一切排除し、根源的なものに集約した風景になっている。目に映るのは、車と人間と背景だけだ。メインの部分で枯れ木が一本見える以外、木々もない。ウォーボーイズのニュークスは、本も読んだこともないし、テレビもインターネットも知らない。木を見たこともないし、もちろん『木』という言葉すら知らない。設定も、キャラクターも、余計なものが一切排除されているのは、アニメの様式だと私は思う。この美意識は、人類が太古から受け継いだ本能だ。旧石器時代の洞窟壁画を見れば、明らかだろう?」
このジョージ・ミラーの言葉を胸に、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観れば、本能からもたらされる興奮の理由がわかる気もする。
「1作目が公開されたとき、日本ではマックスが侍のようだと評され、スカンジナビアではバイキングの戦士のようだと言われた。フランスでは『車の西部劇』と書かれた。さまざまな文化圏で語り継がれる英雄神話の魅力があると信じることができたんだ」
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の大成功によって、ジョージ・ミラーは「マッドマックス」のさらなる新作の準備を開始。2020年の4月に撮影が始まる予定であったが、新型コロナウイルスの影響で延期になっている。逆に、シャーリーズ・セロンが演じた戦士、フュリオサの前日譚がスタートする可能性もささやかれる。新作の行方は混沌としており、またも苦難の末に傑作が生まれてしまうのだろうか。
文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。
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