2020.08.10
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数多あるA24作品の中で際立つ個性
個性的な映画作品を制作・配給し、いまや多くの映画ファンの注目の的となっているA24。本作『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』は、そんなA24によって制作された中でも、他の作品が常識的なものだと感じるほど“個性的すぎる”内容で、観客を唖然とさせた作品である。しかもそれが、実際にあった事件を基にしているというのだから凄まじい。
アメリカ南部、アラバマ州の田舎町。ある中年の男たち3人が、いつものようにガレージに集まって、有名バンドの名前をもじった“ピンク・フロイト”として、楽器を演奏したりビールを飲んで花火で遊ぶなど、バカ騒ぎに興じている。結婚したり子どもがいる人物もいるのだが、彼らはまるで、不良少年が成長せずそのまま年を重ねたような雰囲気である。これが、問題作『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』の導入部だ。
その後、予想もしなかったことが起こる。彼らのひとり、リチャード・ロングは、ある出来事が原因で意識不明の状態に陥ってしまうのだ。ちなみに彼のあだ名はディック。ディックとは“男性器”の隠語であり、ロングは“長い”を意味する言葉だ。彼の仲間であるはずのジークとアールは、そんなポルノ男優のようなあだ名で呼んでいる意識不明の男を病院の前に放置すると、そのまま逃げていってしまう。
なぜディック・ロングは救急車を呼ばれることもなく、病院の入り口前に放置されてしまったのだろうか。この真相こそが本作の凄まじい核心なのだが、それをバラしてしまうと、未見の観客は楽しみの多くを奪われてしまうことになる。ここでは、驚愕の真相を伏せたまま、作品の内容について語っていこうと思う。