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『マッドマックス』監督ジョージ・ミラーは、低予算での映画製作をどう切り抜けたのか
無名俳優、メル・ギブソンの発掘
本作の価値ある要素は、当時まだ無名の役者だったメル・ギブソンを一躍スターダムへと押し上げた点であろう。アメリカに生まれたメル・ギブソンだったが、父親の事業の失敗を受け、68年にオーストラリアへ移住。高校を卒業後は、奨学金を受けながらオーストラリア国立演劇学院――ケイト・ブランシェット、ヒューゴ・ウィーヴィングを輩出する名門――で演技のイロハを学ぶ。数本の映画で端役を経験したのち、『マッドマックス』のオーディションで見事主役の座を掴み、いきなり国際的スターに到達した。
同年公開の『ティム』(79)では、オーストラリアのアカデミーと称されるサミー賞で主演賞、新人賞を獲得。『危険な年』(82)でハリウッドに進出すると、『リーサル・ウェポン』(87)など人気作でスターとしての地位を確たるものとした。その後、『顔のない天使』(93)で映画監督業にも進出、今も俳優、監督の両面で精力的に活躍している。メルを発掘した監督ジョージ・ミラーの伯楽ぶりと、本作の世界的な成功がなければ、今のメル・ギブソンは存在していないと言える。本作の意義深さは、まさにそこだ。
『マッドマックス』(c) 2013 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.
革ジャンにプロテクター姿のマックスは、時代劇に登場する孤高のサムライのようにも見えるし、西部劇のような無法と秩序入り交じるグレーな風貌さえ感じられる。それでいて、『イージー・ライダー』(69)に代表される、アメリカン・ニューシネマの芳香もわずかに漂わせる。
しかし、そういう過去の産物からの影響は感じられつつも、『マッドマックス』という固有の世界観を確立している大きな一因は、やはりマックス・ロカタンスキーの存在、つまりメル・ギブソンそのひとの存在があってこそ。
時代劇、西部劇、さらにアメリカン・ニューシネマなどの文化的特性を深化させ、本作独自の世紀末的世界を調合。新来の世界観に当時のオーストラリアの現実性を投影する本作は、オーストラリア映画界に彗星の如く現われ、オーストラリア映画の存在感を世界中にアピールしてみせた。メル・ギブソンの痺れるオーラと、荒涼な世界観の調和こそが、作品の成功を支えたと言えるだろう。
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。
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