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『ゴーストバスターズ』84年全米興収7週連続No.1!社会現象まで巻き起こした徹底したリアル戦略とは
映画の中でひときわ存在感を発揮したニューヨーク
リアルとフィクションの狭間を埋める要素として「映画の舞台」もまた重要だ。その点、ライトマン監督は映画の完成後、多くの人に「この映画はとてもNYらしい。NYの心意気や雰囲気がとてもよく描かれている」と言ってもらえたことがとても嬉しかったという。
例えば、「鍵の神」に追われた会計士の男がレストランのガラスをガンガン叩いて助けを求めても、誰一人として関心を示してはくれない(DVDのコメンタリーでは「ははは、こりゃニューヨークらしいな」という声が聞かれる)。しかし、そうかと思えば、終盤に市民が一斉にバスターズを讃えるシーンは、これでもかというほどの盛り上がりを見せる。おそらくこの両極端な部分こそリアルな「NYらしさ」なのだろう。
実際、NYでのロケは4週間ほど続いた。その間、様々な名所にて撮影が行われ、また時には出演者たちがゲリラ撮影で通りを駆け抜けていくこともあった。撮影のための通行止めによる大渋滞に巻き込まれた市民も多かったし、バスターズの特殊車両「エクト・ワン」の目撃情報も増えていった。あらゆる意味でニューヨーカーたちの関心はこの映画の話題で持ちきりとなっていった。
『ゴーストバスターズ』(c)1984 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
それに追い打ちをかけるかのように、公開前の宣伝ではあの有名な「ゴースト禁止(No-Ghost)」のロゴと共に公開日の日付だけがプリントされたポスターが街のいたるところに登場したという。なんの宣伝なのか分からない人も多かったはずだが、しかしあえてそれ以上の情報を与えないことで、かえって興味を持ってくれるケースも多かったという。こうやって様々な形で映画へ巻き込まれたことで、NY市民にとってゴーストバスターズは、単なる絵空事ではなく、街に繰り出せばリアルに遭遇できそうな身近な存在に思えたのではないだろうか。
ちなみに、こういった逸話に触れながらふと思い出すのが、ダーレン・アロノフスキーの初監督作『 π』だ。1999年の日本公開を前に、公開館のあった渋谷では至る所で不気味な「π」の文字を見かけるようになり、何だろうと思ってネット検索するとこの映画の存在へと行き着くという、公式なのか非公式なのか分からない宣伝が実施されていた。いずれも観客側が能動的に動くことで初めて真相に辿り着くところに共通性があるが、両者ともに映画のタイトルやロゴが実に浸透しやすい魅力を持っていたのも大きな特徴といえそうだ。