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『オン・ザ・ロック』ソフィア・コッポラが描く、ダイバーシティとニューヨーク、そしてミドルエイジ

(c)2020 SCIC Intl Photo Courtesy of Apple

『オン・ザ・ロック』ソフィア・コッポラが描く、ダイバーシティとニューヨーク、そしてミドルエイジ

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分断化が進むアメリカ・ニューヨークで描かれる、ダイバーシティの物語



 ニューヨークで成功を収めたアートディーラーで、女性が視界に入ればすぐに声をかけるナンパ師で、キャビアをかじりながら真っ赤なアルファロメオを操る粋人。スピード違反で警官に切符を切られそうになっても、「君のお父さんは元気?」と声をかけて仲良くなり、見逃してもらっちゃう人たらし。人生を謳歌しまくるフェリックスは、娘のローラからすればちょっぴり疎ましくもあり、憎めない父親だ。


 学校への送り迎えだけでほとんど家から出ない彼女を、フェリックスはあの手この手で外に連れ出す。そして断絶していた時間を埋めるがごとく、二人はマティーニを傾けながらとりとめもない会話を交わす。


 そこから浮かび上がるのは、フェリックスが唱える「男はすべての女性を支配し、妊娠させたいと思ってる」という、ややもすれば古い価値観との衝突。だが、この映画がこのうえなくチャーミングなのは、“古きもの”は“悪しきもの”と一刀両断に切り捨てることはせず、フェリックスの生き方を否定することもせず、むしろそれを許容し、愛おしく描いていることだ。



『オン・ザ・ロック』(c)2020 SCIC Intl Photo Courtesy of Apple


 性別、年齢、人種、宗教、国籍といった、あらゆる多様性を受け入れること。近年のアメリカで急速に進行する分断化とは真逆の、ダイバーシティがここにはある。ローラの夫ディーン(マーロン・ウェイアンズ)が黒人であることなど、全てがこの多様性に繋がっている。


 ソフィアの処女作『ヴァージン・スーサイズ』(99)で、こんなシーンがあった。自殺をはかった末娘に医師がなぜそんなことをしたのかと尋ねると、彼女は「先生は13歳の女の子ではないもの」と答えるのだ。ここには明らかに「性別と年齢の分断」があり、両者は決して融和することのない他者でしかない。


 だが20年以上の時を経て作られた『オン・ザ・ロック』には、優しさと寛容性をまとった他者への眼差しがある。筆者は、ここにソフィア・コッポラの映画作家としての、いや、一人の女性としての成長を垣間見てしまう。



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