アイルランドのポストジブリ
1999年、アイルランドのバリーファーモット・カレッジのアニメーション学科で同級生だったポール・ヤング、トム・ムーア、ノラ・トゥーミーの3人によって設立されたアニメーション・スタジオのカートゥーン・サルーンは、“ポストジブリ”と称されるなど近年注目のスタジオである。長編アニメーション映画『ブレンダンとケルズの秘密』(09)、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(14)、『生きのびるために』(17)で3度にわたりアカデミー長編アニメ映画賞にノミネート、短編アニメーション映画『レイト・アフタヌーン』(17)ではアカデミー短編アニメ賞にノミネートされ、このたびの最新作『ウルフウォーカー』も本年度アカデミー賞最有力とされている。
幻想的で芸術性の高い作品を数々制作し、今や世界中に数多くの熱心なファンを持っている。批評家筋からも高い評価を得ており、注目せずにはいられないスタジオだ。そんなスタジオが今回制作した『ウルフウォーカー』は、ケルズの伝説に着想を得た『ブレンダンとケルズの秘密』、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』に続くケルズ三部作の完結編という位置付けだ。
『ウルフウォーカー』© WolfWalkers 2020
構想からおよそ7年の歳月をかけて完成された本作は、これまでの2Dでの手描きアニメーションはそのまま、今回新たにオオカミの視点は3Dソフトウェアを使用し、ダイナミックでリアルな表現を併用。2Dと3Dとの異なる風景を活写し、これまでとは一味違うハイブリットな世界観を描き出している。
映画の舞台となるのは、中世アイルランドの町キルケニー(余談だが、キルケニーはカートゥーン・サルーンの本拠地である)。イングランドからやってきたオオカミハンターの父を持つ主人公の少女ロビンが、森の中で風変わりな女の子メーヴと出会う。その子は、人間とオオカミがひとつの体に共存している“ウルフウォーカー”の少女だった。ロビンとメーヴは森の中で友情を育んでいくが、イングランドから来た護国卿の命でアイルランドの森林は次々に伐採、開拓されてゆく。さらにメーヴの母親が行方不明であると知ったロビンは、メーヴの母親を探し、森のオオカミとの共生を目指して奮闘してゆくことになる。
小さな女の子が強大な社会と対立し、世の中を変えようとする物語には、今日的なテーマを感じざるを得ない。本作の物語はファンタジー作品のそれであるが、少女たちが社会の固定観念を打ち砕くストーリーは極めて現実的だ。