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『ウルフウォーカー』ケルトの伝承に着想を得た至極のアニメーション体験

© WolfWalkers 2020 

『ウルフウォーカー』ケルトの伝承に着想を得た至極のアニメーション体験

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自然界のバランスを司る、オオカミの役目



 アイルランドのキルケニーにはかつてオッソリー王国が存在していた。その王国には、眠ると体から魂が抜け出し、オオカミの姿となって大地を駆けるという民間伝承が残っている。その伝承が本作の下書きであることは前述の通りである。本作ではそれらの伝承をファンタジックに描くと同時に、クロムウェル軍によるアイルランド征服の史実を描き出す。


 映画の中の時代設定は1650年。17世紀頃にはイギリスを含めたヨーロッパ諸国では、すでにオオカミは駆逐されていたが、当時のアイルランドは“ウルフランド”と呼ばれるほど、オオカミが残っていたという。アイルランドでは古くから人間とオオカミとの共生社会が構成されており、オオカミは自由の象徴として崇拝されていたというが、クロムウェル軍によるアイルランド征服でそんなイメージは消え去った。



『ウルフウォーカー』© WolfWalkers 2020 


 クロムウェル軍の目的にはオオカミ退治も含まれていたので、アイルランドのオオカミは17世紀に一気に減り、1786年に最後のオオカミが殺された。日本では一般的にオオカミは神聖な生き物であり、またドイツでは暴力や性悪さを象徴するという。アイルランドでは先の通り自由の象徴だが、本作に登場するオオカミは人間界と自然界の境界を司る、いわば“バランス”を意味している。


 自然界のバランスを保つためには必要不可欠であるオオカミという存在が駆逐されたことで、現代の我々は自然的なバランスを失いつつある。キルケニー周辺に残るオオカミの伝承も、人間界と自然界のバランスを保つための自戒の念を込めた素材にほかならない。オオカミとその住処を犯せばバランスが崩れてしまうと考えられていたのだろうが、清教徒革命による混乱でオオカミは減少し、最終的にはヨーロッパ諸国の多くで野生のオオカミは絶滅した。


 少女ロビンは、そういうバランスが崩れかけた社会の中で、なんとかしてバランスを保とうと、オオカミとの共生の道を探そうとする。古代ケルトの人々は、オオカミは自分たちよりも強い生き物、すなわち上位種であるととらえ、尊敬の念をもって共生していたようだ。


 それと同時にオオカミは戦意の表れであるとされ、ローマ人やヴァイキング、ネイティヴ・アメリカンなど世界中の戦士たちがオオカミの皮のユニフォームをまとった(このことがオオカミ人間の伝承の起源であるという説もある)。


 自然界に存在するあらゆる生命を尊敬すること。それが本作の真の意味でのテーマであり、現代を生きる私たちが必要としているものなのだろう。そうした深いテーマを優しい視点で語る本作は、今年最高のアニメーション体験をあなたにもたらすはずだ。




文: Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。



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『ウルフウォーカー』

© WolfWalkers 2020            

配給:チャイルド・フィルム

10/30(金)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

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