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『オールウェイズ』スピルバーグが長年の構想の末に完成させた宿願のファンタジー

(c)Photofest / Getty Images

『オールウェイズ』スピルバーグが長年の構想の末に完成させた宿願のファンタジー

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オードリー・ヘプバーンが出演を決めた理由



 映画の中で、不慮の事故で死んでしまったピートは、天国からの使者ハップ(オードリー・ヘプバーン)の力で、霊になって現世に舞い戻る。その目的は、青年パイロットの守護霊として、彼を導くことだった……。ここで登場するオードリー・ヘプバーンは、前の映画では“将軍”と呼ばれていたライオネル・バリモアの役を演じている。


 彼女は天使なのだろうか。天国の住人であることは間違いなさそうだが、彼女のキャラクターについて映画の中では詳しく言及されない。「私が何者なのかは、誰にも分りません。スティーヴン・スピルバーグでさえも。私は霊魂のようなものです。決して宇宙人ではありません。ただセーターを着た私なんです」、とヘプバーンは述懐する。



   『オールウェイズ』(c)Photofest / Getty Images


 不朽の名作『ローマの休日』(53)でアカデミー賞主演女優賞を獲得し、華々しく銀幕デビュー。『麗しのサブリナ』(54)『ティファニーで朝食を』(61)『マイ・フェア・レディ』(64)など多くの名作に出演し、『ニューヨークの恋人たち』(81)が最後の主演映画となったヘプバーンは、映画業界から距離を置いて、ユニセフ親善大使として世界の飢餓に立ち向かった。親善大使としての役割を果たすのに忙しかったヘプバーンだが、その間にも、映画業界からのカムバックを望む声は絶え間なく上がっていた。


 そうしてヘプバーンは、ユニセフの利益になれば、と8年のブランクを越えて、この『オールウェイズ』でスクリーンに復帰する。なぜヘプバーンはスピルバーグの映画の出演を決めたのだろうか。彼女は「出演を決めたのには二つの理由があります。一つは、これがスティーヴン・スピルバーグの映画だということ、そしてもう一つは、時間的な折り合いがついたということです」、と語っている。


 彼女がハップの役を引き受けたのは、スティーヴン・スピルバーグと一緒に仕事をしたかったから、というのは言うまでもないが、それは女優としての好奇心から来るものだろう。ユニセフ親善大使としての彼女は、映画への出演が世界の飢餓を救うためのきっかけになればと考えていたはずだ。というのも、ヘプバーンは『オールウェイズ』の出演料として約100万ドルを受け取り、そのお金をユニセフに寄附しているからだ。


 1992年の夏、ヘプバーンは腹部に痛みを感じた。結腸癌だった。同年11月に結腸癌の手術を受けたが、容体は芳しくなく、その翌年の1993年1月20日、彼女は天国へと旅立った。いまごろ、彼女は天国の案内人となって、死者を天国へと導いているのだろうか。この映画を観る度に、そんな気がしてならない。


<参考>

「スクリーンの妖精 オードリー・ヘップバーン」(シンコーミュージック)ジェリー・バーミリー(著)/河村美紀(訳)

映画『オールウェイズ』劇場用プログラム



文:Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。



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