深い闇を感じさせる、ミズーリ州の映画
『スリー・ビルボード』の舞台はミズーリ州。原題が『Three Billboards Outside Ebbing Missouri』とあるように、「ミズーリ州エビングの郊外」という部分が重要な意味をもっている。エビングというのは架空の町。実際にロケが行われたのはノースカロライナ州だが、タイトルが伝えるのは、ミズーリ州という土地柄へのこだわりだ。アメリカ全体を地域に分けたとき、ミズーリ州は「中西部」に属する。ビルボードを含めたアメリカらしい光景だけでなく、中西部に独特の、アメリカの光と影を、この『スリー・ビルボード』から感じずにはいられない。
2014年、白人警官が18歳の黒人青年を射殺したマイケル・ブラウン事件が起こったのが、ミズーリ州。この事件が発端となり、人種差別への抗議がうねりとなったことは記憶に新しい。こうした差別や偏見は『スリー・ビルボード』にも空気のように漂っており、たとえば新たに赴任した警察署長が黒人だったときの部下の態度など、あちこちに差別から生まれる憎悪や対立が見てとれる。その差別や偏見など意に介さず、我が道を突き進むヒロインの姿が、逆にどんどん潔く見えてくる、というわけだ。
『スリー・ビルボード』(C)2017 Twentieth Century Fox
ミズーリ州の田舎町といえば、『ゴーン・ガール』の主人公夫婦も暮らしていた。この作品は人種差別が大きく絡むわけではないが、ダークな運命へとなだれ込む起点として、ミズーリの町の、どこか明るい未来が見えない雰囲気が的確にマッチしていた。やはりミズーリを舞台にした『ウィンターズ・ボーン』は、父親の失踪で自宅を差し押さえられた17歳の少女が、必死で家族を守る物語。恐ろしい裏社会も登場し、田舎町の暗部が浮かび上がっていた。ミズーリ州は、どこかアメリカの「闇」を表現するのにふさわしい場所なのかもしれない。