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『スリー・ビルボード』が描く中西部の闇とアメリカらしさ

(C)2017 Twentieth Century Fox

『スリー・ビルボード』が描く中西部の闇とアメリカらしさ

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愛すべき故郷、そしてアメリカの両極



 では、周辺の州も似たような映画の舞台になるのか。西側に隣接するカンザス州では、あのスーパーマン=クラーク・ケントが養父母の下で成長した。不朽の名作『オズの魔法使』では、オズの国での「ここは、もうカンザスじゃない」という名セリフがあるように、オズの夢の国とは真逆の現実的世界として対比されつつ、その故郷に戻ることが最終的な幸せとなった。カンザスは「幸福な故郷」と描かれるケースが多い。


 北側のアイオワ州を舞台にした映画は、『ギルバート・グレイプ』、『フィールド・オブ・ドリームス』、『マディソン郡の橋』など有名な作品が多い。もちろん過酷な現実も織り込まれているが、そのどれもが希望だったり、ロマンチックな面が強調されていたりする。東側のケンタッキー州では『キングスマン:ゴールデン・サークル』で、スパイ組織「ステイツマン」の本拠地となっていた。英国のキングスマンと鮮やかに対比するように、カウボーイハットを被ったスパイたちが「これぞアメリカ」を体現していた。やはりどこか明るい。


 ミズーリに最も近いのは、南側のアーカンソー州かもしれない。地区としては中西部ではなく「南部」に属するのだが、『テルマ&ルイーズ』の不満を抱えた主人公2人が住んでいたのが、アーカンソーの小さな町。少年のホロ苦い成長物語『MUD -マッド-』や、犯罪歴のある主人公と少年の関係を描いた『スリング・ブレイド』など、どこか「取り残された」町のムードが、作品の中で重要なポイントとして機能していた。ミズーリとの共通点を感じられる。


 『スリー・ビルボード』の主人公、ミルドレッドは信念に従うあまり、モラルや正義を二の次にしてまで、自分の意志をまっとうする瞬間もある。そして周囲の人々の価値観には、アメリカが抱える、いい意味での、そして悪い意味での「多様性」が込められている。世界における、アメリカの立ち位置を重ねながら、この映画を楽しみこともできるだろう。



『スリー・ビルボード』(C)2017 Twentieth Century Fox


 ミルドレッドを好演したフランシス・マクドーマンドは、アカデミー賞主演女優賞を受賞した『ファーゴ』でも、凶悪犯を追う臨月の警察署長役で忘れがたいインパクトを放っていた。『ファーゴ』も、『スリー・ビルボード』と同じく、予想を裏切って進む展開に、衝撃とユーモアの絶妙なブレンドが効果的な傑作であった。そして『ファーゴ』の舞台、サウスダコタ州も「中西部」である。善と悪の混在。両極の価値観。恐怖と笑い。アメリカに潜む二面性を映画に込めるうえで、中西部は最高の舞台となるのかもしれない。



文: 斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。 



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(C)2017 Twentieth Century Fox

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