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『スリー・ビルボード』アカデミー賞作品“請負会社”フォックス・サーチライトの実力

(C)2017 Twentieth Century Fox

『スリー・ビルボード』アカデミー賞作品“請負会社”フォックス・サーチライトの実力

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今年のアカデミー賞はサーチライト対決か



 そして2017年度も、サーチライト作品が賞レースをにぎわせている。ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』と、マ―ティン・マクドナー監督の『スリー・ビルボード』だ。前者はゴールデン・グローブ賞の監督賞を受賞。後者は同賞の作品賞(ドラマ部門)、脚本賞、主演女優賞、助演男優賞に輝き、サーチライト作品が賞レースの「中心」になっているのだ。通常、スタジオ側はアカデミー賞に向けて自社の最有力作品をプッシュするが、2017年度のサーチライトに関しては、2作両方を軽く推せば、どちらかが最高の栄誉に到達しそうな気配である。


 最有力の位置につける『スリー・ビルボード』は、ではどんな部分がサーチライトらしいのか。


 まず挙げられるのが、万人が共感できる主人公ではない点だ。娘が殺され、警察の捜査が遅々として進まないことに苛立った母親が、3枚のビルボード(看板)に警察署長を批判する広告を出す。周囲に波紋が広がるなか、母親はまったくひるむことなく、時には強引ともいえる言動で相手を蹴散らしていく。ここまで強烈な主人公は、映画でめったにお目にかかることはなく、だからこそ新鮮でもある。共感できない部分が魅力的なのは、どこか『ブラック・スワン』の主人公も連想させる。



『スリー・ビルボード』(C)2017 Twentieth Century Fox


 そしてもうひとつは、ジャンルの不確かさだ。『スリー・ビルボード』は殺人犯探しのサスペンスに、片田舎の町の人間ドラマ、さらに復讐を描く西部劇のようでもあり、要所にブラックユーモアや軽く笑えるネタも盛り込んだコメディとして観ることもできる。こうしたジャンルの「ブレンド感」はサーチライトらしい。もちろんこれらの特徴は、他のインディペンデント系にも当てはまるだろう。しかし、サーチライトは、20世紀フォックス映画というメジャースタジオの傘下にあり、だからこそ他のインディペンデント系と違って大スターたちを容易にキャスティングできる部分もある。複雑な主人公像、ジャンルをまたぐ作風を、Aクラスの俳優たちで映画にできるのが、サーチライトなのだ。


 かつては他のメジャースタジオも、こうしたインディペンデント系に近い作品を製作していたが、フォックスだけになってしまった。しかもそのフォックスが、ディズニーに買収されることが、2017年の末に発表された。もちろんサーチライトもディズニーの傘下に入ることになる。この買収によって、果たしてサーチライトが今までのようなスタンスで映画製作を続けられるのか? 近年、ピクサーやルーカスフィルム、マーヴェルも買収してきたディズニーは、世界的に大ヒットの可能性が高い作品に絞って製作・配給する傾向になっている。サーチライトのような作家性の強い作品は相容れないわけだが、まだしばらくはサーチライトで製作が進んでいる作品がいくつもあり、今後の動向から目が離せない。



文: 斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。



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(C)2017 Twentieth Century Fox

※2018年2月記事掲載時の情報です。

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