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『ハート・ロッカー』キャスリン・ビグローが炙り出す、現代の戦場に充満する中毒性と依存性

(c)Photofest / Getty Images

『ハート・ロッカー』キャスリン・ビグローが炙り出す、現代の戦場に充満する中毒性と依存性

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リアリティを際立させる無名俳優のキャスティング



 『ハート・ロッカー』の物語は、ウィリアム・ジェームズ二等軍曹、J・T・サンボーン軍曹、オーウェン・エルドリッジ技術兵の、若き3人を軸に展開する。ストーリーの中心となるのは、命知らずのジェームズ二等軍曹。気まぐれで傲慢という性格だが、爆弾処理の技術に関しては、達人の域に達する男だ。ビグロー監督は、この映画のリアリティを際立させるために、見慣れた有名俳優ではなく、比較的無名の、新進気鋭の若手俳優を探そうと考えたという。


 「映画をできる限り緊張感にあふれたリアルなものにしたかったから、比較的無名の俳優を選んだことによって、3人の主役のなかで誰が生き残り、誰が死ぬのか、観客は知ることができなくなったのよ」、と監督は振り返る。


 そうして、ビグロー監督の目にとまったのは、『ジェフリー・ダーマー』(02)で悪名高い犯罪者を演じたジェレミー・レナーだった。レナーと言えば、いまでこそ『ミッション:インポッシブル』シリーズや、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)での活躍が目覚ましい人気俳優だが、当時はまだ世界的にも無名の存在だった。



『ハート・ロッカー』(c)Photofest / Getty Images


 出演のオファーを快く引き受けたレナーは、危険な仕事に従事する男の背景に惹かれたという。「僕が惹かれたのはキャラクターの複雑さだ。ジェームズはありきたりのイケイケ兵士じゃない。本当の人間の持つ肌合いと細部を備えた、稀な性格の男なんだ」。


 寡黙で傲慢で予測できないジェームズ二等軍曹の性格とはまったく真逆のJ・T・サンボーン軍曹役は、アンソニー・マッキーが務めている。マッキーは、ライアン・ゴズリングと共演した『ハーフネルソン』(06)で、麻薬ディーラーの役を演じたことで、ビグロー監督に見初められた。いまではマッキーもマーベル・シネマティック・ユニバースで、コミックヒーローを演じるなど知名度は格段に上がっている俳優である。


 「爆発物を扱う兵士たちは、ある意味スーパーヒーローの要素がなくてはならない。毎朝目覚めるたびに、今度こそ最期かもしれないという恐怖を持っていたら、気が狂ってしまうからね。でも心の奥底では、サンボーンはとても謙虚なんだ」、とマッキーは語る。


このふたりに振り回されるのが、チームの下っ端であるオーウェン・エルドリッジ技術兵だ。演じるのは、『ジャーヘッド』(05)のブライアン・ジェラティ。エルドリッジ技術兵は無垢な心の持ち主で、戦争という名の過酷の中で心が蝕まれてゆく存在として描かれる。


 この無名俳優3人による戦場のセンセーショナルなドラマは、観る者の心をえぐるような不快感と、孤独と、狂気に満ち溢れている。第二次世界大戦を舞台とする古典戦争映画とは180度異なる、現代の戦場に充満している“戦争の代償”を真っ向から炙り出し、戦場の恐るべき実態をまざまざと描写している傑作だ。



<参考>

映画『ハート・ロッカー』劇場用プログラム



文: Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。



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