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『ハート・ロッカー』キャスリン・ビグローが炙り出す、現代の戦場に充満する中毒性と依存性

(c)Photofest / Getty Images

『ハート・ロッカー』キャスリン・ビグローが炙り出す、現代の戦場に充満する中毒性と依存性

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『ハート・ロッカー』あらすじ

2004年のイラク戦争。米軍の爆弾処理班はバグダッド市街地に仕掛けられた爆弾の解体作業を進めていた。しかし、テロリストが携帯の電波を利用して爆弾を起爆、爆弾処理班に殉職者が出てしまう。交代要員として配属されたウィリアム・ジェームズ二等軍曹は、安全対策を怠った爆弾処理作業を行うなど、無謀な振る舞いで仕事を進め、チームの米兵たちに不安を与えていくのだが..。


Index


イラクでの取材経験に基づく真実の物語



 ハリウッドの長い歴史の中で、戦争映画というジャンルの作品は数多製作されてきた。キャスリン・ビグロー監督の『ハート・ロッカー』(08)は、その中でも別格の存在である。監督としては『K-19』(02)以来、実に7年のブランクを超えて完成させた『ハート・ロッカー』は、第82回アカデミー賞で9部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞、編集賞、音響効果賞、録音賞の6部門を獲得。ジェームズ・キャメロン(キャスリン・ビグロー監督の元夫)の『アバター』(09)を抑えて、その年の賞レースで旋風を巻き起こした。監督は、史上初の女性によるアカデミー監督賞受賞者となり、名実ともにハリウッドを代表する監督へと昇り詰めた。


 『ハート・ロッカー』は、脚本家兼ジャーナリストであるマーク・ボールが執筆したオリジナル脚本に基づいている。オーバリン大学を卒業後、長編ノンフィクション作家としてキャリアをスタートさせたマーク・ボールは、23歳という若さで、ヴィレッジ・ヴォイス紙のコラムを担当。これまで、政治、テクノロジー、犯罪などに関する記事を書いており、全米規模の出版物で彼の記事を読むことができる。彼が2003年に、プレイボーイ誌向けに書いた「Death and Dishonor」は、ベテラン軍人が行方不明の息子を探しに行くという実話に基づく記事で、のちにポール・ハギス監督作品『告発のとき』(07)として映画化されている。


『ハート・ロッカー』予告


 『ハート・ロッカー』は、ボール自身が米陸軍爆弾処理班に何週間も入り込み、イラクで活動する米軍兵士と行動を共にしながら、イラクの実状に迫った取材体験が下敷きとなっている。『ハート・ロッカー』のキャラクターとストーリーはフィクションであるが、ボールがバグダッドの危険な地域で経験した恐るべき実態は、映画の中で克明に描かれる。その描写のリアリティは、ノンフィクションのドキュメンタリーと見紛うほどの完成度だ。


 また本作が描くのは、21世紀における“戦争の代償”の一つ、“依存性”だ。『ハート・ロッカー』は、戦争の恐怖に依存している寡黙な男の姿を活写する、戦争中毒者の物語だ。ボールは語る、「イラクでの体験は僕に深い印象を残した。帰国して思ったよ。あの兵士たちがどんな生活をし、何に直面しているのか、誰もまったく知らないんだ」




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