オープニングを彩るカメラワークの素晴らしさ
オープニングは圧巻だ。開始早々、ボクシングのタイトルマッチに向けて高まる怒涛の臨場感にさらされる。会場内では観客たちの熱狂と興奮が頂点に達し、また会場の外は、まもなく沿岸部にハリケーンが上陸するとあって、すでに猛烈な雨風が吹き始めている状況だ。
その狂騒を掻い潜るかのように、ハイテンションのニコラス・ケイジがゆく。彼の背中を追いかけてカメラが回廊を滑らかに移動し、ところどころで重要人物の姿を印象付けながら、会場の様子を舐めるように伝えていく。
撮る人によっては、なんてことのない描写に終始したかもしれないこのシークエンス。しかしこれは他の誰でもない、デ・パルマの映画なのだ。彼が手札の中からまず叩き出すのは驚異的な”長回し”手法。この怒涛の洗礼に、まだ試合のゴングが鳴る前の序盤戦から、我々は滅多打ちにされることになる。
『スネーク・アイズ』(c)Photofest / Getty Images
一説によると、この長くて複雑なオープニングシークエンスは決して”ひと息で撮られたもの”ではないらしい。人が横切ったり、カメラがパンする瞬間に何度か映像が切り替わっているとのこと。
しかし、誰が何と言おうとこの十数分に及ぶオープニングは素晴らしい。まさに一級品だ。人の感情の流れや臨場感をいっさい途切れさせることなく、ボルテージを徐々に高めながら完璧な”長回し風映像”に仕立て上げた手腕は、大いに評価すべきだろう。