デ・パルマおなじみのスプリット・スクリーン
さらに、ストーリーを展開させる手法の一つとして登場するのが、デ・パルマの伝統芸ともいうべき”スプリット・スクリーン(画面分割)”だ。
彼はこの手法を"Dionysus in '69"という初期作品の頃から取り入れていると言う。観る人によって賛否や受け止め方の違いはあるだろうが、相反する出来事、あるいは並走して巻き起こる決定的瞬間を「同時に見せる」上で、これが極めて効果的なやり方であることは確かだ。
『スネーク・アイズ』スプリット・スクリーン
そもそも、本作のプロットをただ単に時系列で並べても、それは決して中身の詰まった内容とは言い難い。こういった時こそ「映像によって語る」ことのスペシャリストたるデ・パルマの見せ場。彼の手による斬新かつ大胆な手法は、ストーリーを破壊&再構築しながら、我々をめくるめく興奮と狂気の世界へと引き摺り込んでやまない。
この「映像によって語る」という彼の特質が、ヒッチコック作品への妄執からもたらされたものであることは周知の事実。さらに言うと、本作には『羅生門』(50)の影響までもが漂っているのが実に興味深い。各々の視点によってビジョンが異なるという、いわば万華鏡のような主観世界をデ・パルマが構築すると、かくも黒澤明の傑作とは程遠い怪作が誕生してしまうのである。