ロブ・ライナーとノーラ・エフロンの出会いから生まれた作品
『恋人たちの予感』が男女の友情問題、そしてセックスを主題にしたのは、この映画がまさにその問題から出発したからだ。本作の監督は『スタンド・バイ・ミー』(86)『最高の人生の見つけ方』(07)のロブ・ライナー。脚本を手がけたのは、ジャーナリスト出身で脚本家・監督となったノーラ・エフロン。本作のあと監督として『めぐり逢えたら』(93)をはじめ良質なラブコメ映画を数々手がけた彼女は、ハリウッドでの女性監督の地位を築いた先駆者でもあった。
『恋人たちの予感』の誕生秘話について聞かれるたび、ノーラ・エフロンは「これはロブ・ライナーがいたからこそ書けた話だ」とくりかえし語っている。彼女が書いた『恋人たちの予感』シナリオブックの序文によれば、彼らの出会いは1984年。ロブ・ライナーとプロデューサーのアンドリュー・シェインマンに呼び出されたエフロンは、ランチをしながら新しい映画の企画について話し合いをした。
『恋人たちの予感』(c)Photofest / Getty Images
プロデューサーたちが考えていたのは、弁護士が主役の映画。当時のエフロンは、70年代に核燃料工場での不正を告発した実在の女性カレン・シルクウッドの半生を描いた、マイク・ニコルズ監督『シルクウッド』(83)の脚本家として注目を集めていた。ライナーたちが提案したのもおそらく社会派映画の企画だったのだろう。だが当のエフロンはその企画にまったく興味がわかず、話は弾まない。しかたなく、彼らのランチタイムは自己紹介からたわいのないおしゃべりに興じることになった。そしてこのおしゃべりこそが『恋人たちの予感』へとつながっていく。
ロブ・ライナーは当時離婚をして再び独身になったばかり。アンドリュー・シェインマンは未婚のまま。彼らはL.A.での独身生活がいかに気ままで自由かをたっぷりとエフロンに語ってみせた。一方の彼女も、数年前に二番目の夫カール・バーンタインと離婚したばかり(その顛末は映画『心みだれて』(86)に結実した)。独身男性ふたりの恋愛と友情についての本音トークは、エフロンを驚かせると同時に楽しませた。
次に彼らが会ったのはニューヨーク。新しい企画案がいくつか挙がったがやはり盛り上がらない。やがて話は前回同様、自分たちの身の上話へと発展する。そして最後にライナーが言った。ここで3人が話したテーマについての映画をつくってみないかと。彼が提案したのは、友情関係を育むある男女の物語。ただし彼らはけっしてセックスはしないと決める。なぜならセックスはすべてを台無しにしてしまうから。話を聞いたエフロンは答える。「やってみようじゃない」。