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『恋人たちの予感』監督ロブ・ライナー×脚本ノーラ・エフロン、ラブコメ映画の金字塔はどのようにつくられたか

(c)Photofest / Getty Images

『恋人たちの予感』監督ロブ・ライナー×脚本ノーラ・エフロン、ラブコメ映画の金字塔はどのようにつくられたか

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監督たちを驚かせた女のオーガズム問題



 『恋人たちの予感』の脚本作りは、まずライナーとシェインマンが「男の気持ち」を包み隠さず披露するところからスタートした。ライナーたちは、女性とは絶対に友人関係になれない、と語る。なぜならそこには必ずセックスの問題が入り込み、両者の友情を邪魔するのだと。エフロンはそんなはずはないと反論するも、男たちは譲らない。また男たちがベッドのなかで本当は何を考えているか、その本音は彼女を呆れさせる。なぜ女と男はこれほど違うのか。どうすれば両者はわかりあえるのか。そうして映画の骨格が徐々にできあがっていく。何よりエフロンが興味を抱いたのは、ロブ・ライナーという風変わりで魅力的な人物のこと。彼はとてもひょうきんな半面、非常に陰気で内省的な一面も持っていた。彼女はライナー自身をもとに、ハリーのキャラクターを作り上げていく。


 男たちの話をたっぷり聞くと、ライナーは「次は君が女性の本音を教える番だ」と、エフロンへのインタビューを開始する。実際のところ女性はセックスについてどう考えているのかと聞かれたエフロンは、オーガズムについて語り出す。「女性の多くはオーガズムの“フリ”をした経験があるはず」。このときの男性陣の反応を忘れられないとエフロンは語る。ふたりはあんぐりと口を開けたまま長いこと沈黙し、やがておずおずと聞き返した。「……みんながそうってわけじゃないよね?」



『恋人たちの予感』(c)Photofest / Getty Images


 この会話から数日後、監督たちはエフロンに「あの話をぜひ脚本に盛り込んでほしい」と頼みこむ。「自分がこれまでセックスをした女性はみんな満足していた」と自信満々に語るハリーに、「どうしてわかるわけ? 女性はみんな“フリ”をした経験があるのに」と呆れ、納得しない彼のために実演すらしてみせるサリー。映画史に残るあの名シーンが誕生した瞬間だった。


 2012年にノーラ・エフロンが亡くなったあと、ロブ・ライナーは、彼女がいかに魅力的で頭がよく機知に溢れた人物だったかを語っている。そして『恋人たちの予感』のサリーのなかにはたしかにエフロン自身がいたと指摘する。陽気で楽観的で、ある種の完璧主義者。一緒に食事に行けば、いつもシェフでさえ思いつかないような注文をしてくれた。レストランでの注文については、エフロン自身もある逸話を紹介している。『恋人たちの予感』のランチミーティングで彼女がアボカドとベーコンのサンドウィッチを注文したときのこと。「パンは焦げ目がつけるくらいしっかりトーストして、ベーコンはカリカリに焼いて。それとマヨネーズはパンに挟まずお皿の横に添えてね。その方が絶対に美味しいから」。すらすらと注文した彼女は、ライナーとシェインマンが目を丸くして自分を見つめているのに気づく。その姿は、アップルパイに載せるアイスも、ウェディングケーキのクリームも、とにかくなんでも横に添えたがるサリーそのもの。


 最初のランチミーティングから4年が経った1988年、『恋人たちの予感』の撮影がスタートする。そうしてエフロンは、実際の撮影現場のなかで脚本がどのように肉付けされていくかを知ることになる。たとえば先のオーガズムをめぐる会話シーン。“本物”と“フリ”をめぐるふたりのやりとりを読んだメグ・ライアンは、サリーがその“フリ”を実演する様をレストランでのシーンの最後に入れることを提案する。そしてビリー・クリスタルは、彼女の熱演が終わったあと、隣席の女性に「あの女性と同じものを」と注文させてはどうか、と助言(ちなみにこの隣席の女性を演じたのはロブ・ライナーの実母)。それまで、脚本家としてのキャリアの頂点とは自分が書いたテキストを一字一句違わずに映画化されることだと信じていたエフロンは、その考えが大きな間違いだと気づく。監督や俳優たちによって脚本がよりよい方向へ変化していくこと、それこそが映画製作の醍醐味なのだと。




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