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『セルピコ』シドニー・ルメットとアル・パチーノが描く、法と正義への信頼を取り戻させた骨太警察ドラマ

(c)Photofest / Getty Images

『セルピコ』シドニー・ルメットとアル・パチーノが描く、法と正義への信頼を取り戻させた骨太警察ドラマ

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セルピコと完全同化を果たしたアル・パチーノ



 ブレグマンは、オフ・ブロードウェイの舞台に出演していたパチーノの才能に惚れ込み、マネージャーとして彼のサポートを買って出た経緯があった。『ゴッドファーザー』(72)も『狼たちの午後』(75)も、出演を勧めたのはブレグマン。アル・パチーノにとって彼は、スターダムに押し上げてくれた恩人だが、それでも最初『セルピコ』(73)の出演に乗り気ではなかったという。第一稿の時点ではあまりにも政治的な内容に偏向していたため、出演を固辞していたくらいだ。しかし、パチーノは最終的にGOサインを出す。


 「私は脚本を読んで、また刑事映画かと思った。その後、(脚本家の)ウォルド・ソルトが、自分が共感できる脚本を持ってきたので、参加することにしたんだ。そして、フランク・セルピコに出会った。握手をして彼の目を見た瞬間、この映画がどんな作品になるのか理解できた。自分が演じることのできる“何か”が、そこにあると思ったんだよ。」(PLAYBOYのインタビューより抜粋)


 アル・パチーノは役作りのため、自分が借りていた家にフランク・セルピコを招待して同居を始める(!!)。そしてゆっくりと時間をかけて、セルピコという人間に自分を同化させていった。そして、本当に彼は“セルピコ”になってしまう。有名な逸話だが、パチーノは警察バッジを見せてトラック運転手を逮捕しようとしたのだ。


『セルピコ』(c)Photofest / Getty Images


 「暑い夏の日、私はタクシーの後部座席にいた。そうしたら、トラックが目の前でいろんなものを放り出したんだ。私は、『なぜゴミを道に捨てるんだ!』と叫んだ。運転手が『お前は誰だ?』と言ってきた。私は『俺は警官だ!お前は逮捕される!車を止めろ!』と答えて、セルピコのバッジを取り出した。ファンタジーな瞬間だったね。」(PLAYBOYのインタビューより抜粋)


 完全にセルピコが乗り移ったパチーノの演技は圧巻だ。筆者は、この映画を見返すたびに彼が「とても小さく見える」ことに感動を覚える。もともと小柄な俳優だが、普段よりも猫背で、何かに怯えるかのように肩をすくめている。賄賂をなぜ受け取らないのか、と同僚に取り囲まれるシーンでは、(おそらく意図的に)圧倒的な身長差が強調されていて、彼の小ささが際立つ。


 「ドン・キホーテは役者か、または変人か。道化か聖人か。これぞセルバンテスの作品の革新、テーマである」


 セルピコが『ドン・キホーテ』の講義を受けているシーンで、大学教授はこんな言葉を語りかける。たった一人で巨大権力に立ち向かうセルピコは、まさに風車に突撃するドン・キホーテ的な存在だ。まさに孤立無縁、四面楚歌、徒手空拳。パチーノは内面だけではなく肉体的にアプローチすることで、その状況を巧みに表現しているのだ。




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