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『セルピコ』シドニー・ルメットとアル・パチーノが描く、法と正義への信頼を取り戻させた骨太警察ドラマ

(c)Photofest / Getty Images

『セルピコ』シドニー・ルメットとアル・パチーノが描く、法と正義への信頼を取り戻させた骨太警察ドラマ

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シドニー・ルメットを悩ませた過酷な撮影



 監督は、『ロッキー』(76)や『ベスト・キッド』(84)で知られるジョン・G・アヴィルドセンが務める予定だったが、プロデューサーとの意見の相違でプロジェクトを離脱。『十二人の怒れる男』(57)で見事な手腕を発揮した、シドニー・ルメットがその役割を担うこととなる。


 問題は山積みだった。まずはキャスティング。この映画では、107人にも及ぶ登場人物との会話シーンがあった。当然、誰にどの役を演じさせるのか、緻密なプランニングが必要になる。ルメットが下した結論は、無名の役者の起用。映画のリアリズムを高めるには、「俳優が登場した時に、観客が役柄を連想できないこと」が大切だと考えたのだ。


 後年ルメットは、アガサ・クリスティ原作のミステリー『オリエント急行殺人事件』(74)を映画化しているが、その時にはイングリッド・バーグマン、ショーン・コネリー、アンソニー・パーキンスなどなど、オールスターをキャスティング。容疑者全員が有名俳優なら、配役で犯人がバレないだろうという計算だ。『セルピコ』とは真逆のアプローチだが、この思い切ったキャスティングがルメットの持ち味なり。


『オリエント急行殺人事件』予告


 撮影も困難を極めた。ロケ地はニューヨークに集中しているものの、スタテンアイランドを除くニューヨークの全ての地区で撮影する必要があり、その数は全部で104にも上った。少ないテイクで撮影しては撤収し、また次の撮影場所に向かうという強行軍。そのあまりのせわしなさに、アル・パチーノも最初は唖然としていたという。


 しかもこの映画では、実際とは逆の順番で撮影を敢行した。セルピコは時間が経過するにつれて髪はボサボサになり、髭はボーボーになるが、これを順撮りしていたら「毛の生え待ち」になって、時間がかかりすぎてしまう。そこでシーンごとに髪と髭を少しずつ刈り込む作戦をとったのだ。アル・パチーノにとってはかなりの苦行だっただろう。感情の流れがズタズタになってしまうからだ。ある意味『TENET テネット』(20)以上の逆行ぶり。


 し・か・も!ルメットとパチーノは、ウォルド・ソルトの脚本はセリフが貧弱であると考え、多くのシーンで即興芝居を取り入れた。アドリブ多すぎ、ロケ地多すぎ、撮影はnot順撮り。だがこの名優はそんな状況でも、シーンごとに的確なプランを張り巡らせ、パーフェクト・アクトをご披露。スタッフを驚嘆させたのである。


 苦心惨憺の末完成した『セルピコ』は、アメリカ人から熱狂をもって迎えられ、’70年代を代表する一本となった。そしてこの作品には、「ニューヨークを舞台に描かれる、硬質で骨太な社会派映画」という、シドニー・ルメットのシグネチャーがしっかりと刻印されている。ルメットの快進撃はここから始まったのだ。



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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