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『レッド・オクトーバーを追え!』ショーン・コネリーの品格がリアリティを底上げする珠玉の潜水艦映画

(c)Photofest / Getty Images

『レッド・オクトーバーを追え!』ショーン・コネリーの品格がリアリティを底上げする珠玉の潜水艦映画

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1984年11月、ゴルバチョフ政権前夜



 動力に原子炉を使用する潜水艦を“原潜”と呼ぶ。人類史における史上初の原潜は、米国海軍のノーチラス号であり、その登場は1954年にさかのぼる。『レッド・オクトーバーを追え!』では、それから30年後の1984年11月を背景に、米ソ双方の視点から緊迫のドラマを描き出す。レッド・オクトーバーはソ連海軍の新型原潜の名で、水中音の極めて少ない推進装置を備えている。海中に電流を流すと磁界が発生し、艦に取り付けた強力な超電導磁石による磁場との反発で前に進む。つまり、ソナーでは識別できない無音推力を擁する忍者潜水艦というわけだ。


 それを指揮するマルコ・ラミウス(ショーン・コネリー)艦長は、ソ連という国家、社会に愛想を尽かし、腹心の部下を集めて乗艦もろとも米国への亡命を決意する。それを察知したCIA分析官のジャック・ライアン(アレック・ボールドウィン)は、ラミウス艦長との接触を試みるべくレッド・オクトーバーの後を追うが、時を同じくして、亡命を知ったソ連側も必死に行方を追っていた――。


『レッド・オクトーバーを追え!』予告


 冷戦末期の1984年、米ソ間では一層の緊張感が漂った。同年のロサンゼルスオリンピックでは、ソ連・東欧圏の十数か国が大会ボイコットを表明し、東側諸国は西側に対して強硬な姿勢を示したのである。平和の祭典までもが冷戦の最中で揺れるなか、米国のレーガン大統領は全米向けラジオ放送のマイクテストで、「ソ連を爆撃する」とジョークを言い放ち、後に物議を醸したが、1984年11月の大統領選ではレーガンが圧勝で再選を決め、政権2期目が発足された。


 傷のつかない“テフロン大統領”の異名で知られるレーガン大統領は、タカ派(対ソ強硬派)の共和党員であり、レーガン政権では一貫して対ソ優位を進めるための国防費突出が見られた。注目されるのは、戦略防衛構想(SDI)と呼ばれる弾道ミサイル防衛体系であり、スターウォーズ計画と通称される。これは、同時代を描く『ワンダーウーマン 1984』(20)の中でも言及されており、具体的には、ソ連から発射されたミサイルを軌道上で迎撃する未来兵器だった。しかし、費用面と技術面の双方の観点から、計画続行は困難と判断され、いつしか構想は放棄された。


 ジョージ・オーウェルの「1984年」に描かれる近未来の世界では、核兵器による第三次世界大戦が勃発し、世界は3つの大国により分割統治され、その中のひとつの全体主義国家では、自由な言論を封じる完全監視社会が成立している。だが実際の世界の情勢は、1984年以降、極めて安定傾向にあり、この年以降から米ソ間の関係は回復基調に向かった。つまり、1984年は米ソ冷戦におけるターニングポイントの時代なのだ。


 特にソ連では、チェルネンコの死去を受けて、ハト派的なゴルバチョフがソ連共産党書記長に就任。1985年のことである。これを機に、米ソ緊張緩和の時代が到来。1989年には東側諸国の民主化が進み、ベルリンの壁が崩壊。同年末にはヤルタ会談で冷戦終結が宣言され、核戦争の恐怖は遠のいていった。1991年にはソ連崩壊と続き、移り変わりの激しさが増す中で、『レッド・オクトーバーを追え!』は、1990年に公開されたのである。





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