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『レッド・オクトーバーを追え!』ショーン・コネリーの品格がリアリティを底上げする珠玉の潜水艦映画

(c)Photofest / Getty Images

『レッド・オクトーバーを追え!』ショーン・コネリーの品格がリアリティを底上げする珠玉の潜水艦映画

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『レッド・オクトーバーを追え!』あらすじ

レッド・オクトーバーはソ連海軍の原子炉を動力とする新型潜水艦で、水中音の極めて少ない推進装置を備えている。それを指揮するマルコ・ラミウス艦長は、ソ連という国家、社会に愛想を尽かし、腹心の部下を集めて乗艦もろとも米国への亡命を決意する。それを察知したCIA分析官のジャック・ライアンは、ラミウス艦長との接触を試みるべくレッド・オクトーバーの後を追うが、時を同じくして、亡命を知ったソ連側も必死に行方を追っていた――。


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名優の品格



 映画には“品格”が備わっている。いや、厳密には、映画そのものではない。キャストから醸し出される品格こそが、映画のイメージに紐付けされているからで、結局のところ、映画における品格とは、キャストから感じられる気高さや風格から来ているのだろう。例えば、かのオードリー・ヘプバーンの柔らかな包容性と、清廉な美しさ、そして少しの茶目っ気は、それがそのままヘプバーンの映画の特色として輝きを放っているわけで、いわばキャストの身に備わる貫禄や格調というものが、映画の品格を定める要素なのだと感じる。


 そういう意味でいえば、初代ジェームズ・ボンドで知られるショーン・コネリーは、映画の“品格”をグッと押し上げる人物だった。『007/ドクター・ノオ』(62)で、英国式スーツの様式美に身を包み、初代ボンドを好演。冷静で格式ばった腕利きのプレイボーイ・スパイを体現し、以降の実写ボンドの原型を形作った。その後も『007/ロシアより愛をこめて』(63)、『007/ダイヤモンドは永遠に』(71)など6作でボンドを演じ、『ネバーセイ・ネバーアゲイン』(83)でボンド役に別れを告げた。

 


『レッド・オクトーバーを追え! 』TM & COPYRIGHT (C) 1989 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.TM, (R) & Copyright (C) 2012 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.


 ボンド以降も、ショーン・コネリーの活躍ぶりは破竹の勢いだった。『オリエント急行殺人事件』(74)では、主演のアルバート・フィニーをはじめ、ジョン・ギールグッド、イングリット・バーグマンら、名だたる顔ぶれと共演し、強い存在感を残している。『薔薇の名前』(86)では、持ち前の沈着な演技で、その後の俳優としての評価を著しく決定付けた。『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(89)も、カメラがショーン・コネリーの姿を捉えると、作品の品格が底上げされる印象だった。


 ボンド役のイメージが拭えず苦労するボンド俳優もいる中で、ショーン・コネリーは不動のボンド像から訳もなく脱するばかりか、演技派俳優としてのさらなる定評も集めた。『アンタッチャブル』(87)の老警官役ではアカデミー助演男優賞を受賞し、名実ともにトップ俳優となったが、生まれは労働者階級の家庭であり、青年期には苦労を重ねた。牛乳配達員、鉄鋼労働者など多くの経験を積み、1950年代頃から演技の道に入っている。


 その後年輪を刻み、さらなる渋みを増したショーン・コネリーが、ソ連海軍の将校を演じた『レッド・オクトーバーを追え!』(90)は、彼のフィルモグラフィの中でも突出している佳編だ。この頃のショーン・コネリーは円熟の域に達しており、1980年代から1990年代は、彼の役者人生の中でもキャリアハイの時代だと言える。


 本作では、スコットランド生まれのショーン・コネリーがソ連人を演じているが、冒頭など一部のシーンを除いては、英語で会話が進むため、人種的あるいは言語的なリアリティに欠いているとも言える。しかし、である。多少のリアリティを削いだとしても、ショーン・コネリーの登場にはそれ以上の恩恵があるからで、どんなに荒唐無稽な物語であろうとも、映画をより高尚なものに変えてくれる。それこそが、名優に備わる“品格”ではないか。





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