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『クルエラ』がパンク映画になり得た、監督・脚本・主演・スタジオの“共謀関係”
4年がかりで企画を実現させたエマ・ストーン
バラバラな個性のメンバーを集めた「全方位型」な作品ではなく、得意分野が似通うメンバーをそろえて「一点突破型」にしたことで、爆発力や濃度が限りなく高まる戦い方を選択した『クルエラ』。それゆえに、ハマった場合のカタルシスが抜群だ。そして、その効果を高めるために、冒頭に述べた亜種の「二重人格もの」の要素を的確に用いている。
作品を観ると、権威主義者に対して反旗を翻すアナーキストとしてクルエラが描かれており、虎の威を借る狐的な役割、つまり社会のヒエラルキーに従う存在としてエステラが存在する。エステラが逆境をひっくり返したいと願ったとき、クルエラに“変身”するという構造だ。劇中にも「エステラは無理。クルエラは達成する」といったセリフが登場し、別個人として捉えている節がある。
こうしたつくりにしたことで、エマ・ストーンやクレイグ・ガレスピー監督、トニー・マクナマラの得意なゾーンが、クルエラに代わった瞬間――「変身シーン」を境にスパークする、という“動き”や“見せ場”が生まれる。音楽や衣装、さらには疾走感を含め、画面のテンションが一気に上がる仕掛けになっており、ロックチューンがサビに差し掛かった際のような快感が駆け抜けることだろう。ある種のヒーローものとして観ることができるかもしれない。変身を合図に各要素が一斉に、かつ有機的に走り出す部分は、本作の大きな特徴だ。
『クルエラ』The Fashion Featurette
『クルエラ』The Music Featurette
ちなみに『クルエラ』の製作総指揮にはエマ・ストーンと『101』(96)でクルエラを演じたグレン・クローズが入っており、ストーンは2016年に企画に参加。2018年にガレスピー監督が加わり、マクナマラが参加したという流れだ。彼らの就任のタイミングで「舞台を1970年代にする」ことが決まり、劇中のファッションや音楽の方向性、パンクロックテイストが具体的に見えていったとか。
なお、衣装においては、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)のジェニー・ビーヴァン、音楽(オリジナルスコア)は『ムーンライト』(16)などのニコラス・ブリテルが手掛けており、各セクションに有名どころがずらり。既存曲では、至る所でクイーンやドアーズといった世界的バンドの名曲が吹き荒れる。
こうした点から見ても、本作には抜きどころがなく、ただひたすらに攻めの一手。エマ・ストーンと対峙するエマ・トンプソンの演技も意図的に濃い目に設計されており、さらに全体を通してテンポも速く、色のコントラストも強い。ただ、そこに「全セクションがフルパワーで行く」という統一感があるため、破綻するどころか巨大なうねりを生み出している。