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『ラースと、その彼女』「治さない」という優しさ。居場所を与える、“幸福な嘘”

『ラースと、その彼女』「治さない」という優しさ。居場所を与える、“幸福な嘘”


※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


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4年間寝かせた脚本が、アカデミー賞候補にまで選出



 優しさだけで出来た映画――そう呼んでも、差し支えないだろう。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(17)の俊英、クレイグ・ガレスピー監督とライアン・ゴズリングが創り上げた『ラースと、その彼女』(07)は、他者との共存と思いやりの美しさを穏やかに見つめた、心洗われるおとぎ話だ。


 アメリカの田舎町に暮らす、とてもシャイな青年ラース(ゴズリング)。繊細で物静かな彼は、兄夫妻の家の裏にあるガレージで淡々と暮らしていた。そんなある日、兄夫妻はラースから「女性を紹介したい」と相談される。弟に恋人ができたと喜ぶ兄夫妻だったが、その女性と対面して愕然とする……。「元宣教師で、ブラジルとデンマークのハーフ」という女性ビアンカは、どう見てもラブドールだったからだ。


 CMディレクター出身のガレスピー監督は、脚本を受け取った当初「ラブドールに恋をする」というテーマが観客に受け入れられるのか半信半疑で、4年間寝かせたというが、出来上がった映画はトロント国際映画祭で上映されるや評判を呼び、2008年の第80回アカデミー賞では脚本賞にノミネートされた。ちなみに、同じく候補入りしたのは『JUNO/ジュノ』(受賞)、『フィクサー』、『レミーのおいしいレストラン』、『マイ・ライフ、マイ・ファミリー』。この年の作品賞は『ノーカントリー』だ。



 本作は2007年のナショナル・ボード・オブ・レビュー(米国映画批評会議)賞のオリジナル脚本賞にも輝いており(『JUNO/ジュノ』と同時受賞)、2004年の受賞作が『エターナル・サンシャイン』、2005年は『イカとクジラ』、2006年は『主人公は僕だった』、2008年は『グラン・トリノ』という流れを見ても、この物語自体が非常に高い評価を得ているとわかる。ガレスピー監督の懸念は、最高の形で裏切られたわけだ。


 余談だが、日本においてはこの「ラブドールに恋をする」という設定はそこまで理解から遠いものではなく、是枝裕和監督作『空気人形』(09)、タナダユキ監督作『ロマンスドール』(20)、湯浅政明監督のテレビアニメ『四畳半神話大系』(10)などの秀作も多い。この辺りは、古来より人ならざるものに恋をする文化が根付いていることに起因するのかもしれない。


 さて、『ラースと、その彼女』の話に戻ろう。本作の撮影期間は31日間と小ぶりな方だが、スタッフ陣はなかなかに豪華。『カポーティ』(05)、『わたしを離さないで』(10)、『アイム・ヒア』(10)の撮影監督アダム・キンメル、製作総指揮になんと『バトルシップ』(12)やマーク・ウォールバーグとのタッグで知られるピーター・バーグ監督が入っている。手練れたちがしっかりと能力を発揮した結果、味わい深い作品に仕上がったのだろう。



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