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『ラースと、その彼女』「治さない」という優しさ。居場所を与える、“幸福な嘘”

『ラースと、その彼女』「治さない」という優しさ。居場所を与える、“幸福な嘘”


おとぎ話を成立させた、ライアン・ゴズリングの無垢さ



 もちろん、評価されているのは脚本ばかりではない。『ラースと、その彼女』で第65回ゴールデングローブ賞の主演男優賞(映画・ドラマ部門)にノミネートされたライアン・ゴズリングの、邪気の欠片もない、だが哀愁を感じさせる演技のさじ加減は絶妙だ。下手をすれば性的なにおいが漂ってしまいそうな「ラブドール」という題材から、彼の存在が一切の毒気を取り除いている。どこまでもピュアで、曇り一つない純愛にしか見えないのは、ゴズリングが体現する「親愛」があってこそだろう。


 今でこそ人気俳優のゴズリングだが、このころはまだブレイクの最中。12歳でデビューした彼は、『きみに読む物語』(04)で注目され、『ハーフネルソン』(06)でアカデミー賞主演男優賞に候補入り。本作を経て、『ブルーバレンタイン』(10)、『幸せの行方...』(10)、『ドライヴ』(11)と順調にステップアップしていった印象だ。本作では、「寡黙でカッコいい」というイメージを構築する前の、彼の(今観ると逆に新鮮な)かわいらしく愛嬌のある演技を楽しめるだろう。



 ただ、『ラースと、その彼女』で特徴的なのは、主人公はラースだが、感情の「主軸」は彼にはないということ。ラースは冒頭時点で観客から顔をそむけてしまい、なぜラブドールに恋をしたのかの理由も明かされず、観客は周囲の人間の「反応」に共感して物語を読み進めていく。後半になると、ラースの「感情」が豊かになっていき、観客の価値観と合致していく――という特殊な構成になっている。


 つまり、本作においては主人公が「共感できない」「理解できない」というところから始まり、物語が進むにつれて「共感できる」「理解できる」へとスライドしていくということ。ここで重要なのは、脇を固める役者陣だ。彼女たちが「陰の主役」として物語を引っ張っていくことで、後半に用意されているゴズリングとの「役割交代」が効いてくる。


 ラースを常に気に掛ける愛情深い義姉カリンを演じたのは、『マイ・ブックショップ』(17)の好演が記憶に新しいエミリー・モーティマー。ビアンカとラースを同時に診る医師ダグマーに扮したのは、『エデンより彼方に』(02)、『シャッター アイランド』(10)ほか多くの作品で理知的な演技を披露するパトリシア・クラークソン。ラースに想いを寄せる同僚マーゴ役は『アビエイター』(04)や『サムサッカー』(05)のケリ・ガーナー。彼女たちが演じる3人の女性キャラクターがラースの周りを衛星のように飛び回り、ストーリーをけん引しつつ、ラースの内面の語り部となっていく。



 彼女たちが常識を超えた「理解」を示す立場であるのに対し、常識に基づく「拒絶」の役割を背負ったのが、ラースの兄ガス役のポール・シュナイダーだ。『ジェシー・ジェームズの暗殺』(07)や『カフェ・ソサエティ』(16)に出演する彼が見せる「頭を抱える」「戸惑う」などの演技は、「観客の代弁」として機能している。物語を突飛なものにしない“錨”として、非常に有効だ。



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