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『テス』に刻印された、ロマン・ポランスキーのオブセッションとは

©1979 PATHE PRODUCTION - TIMOTHY BURRILL PRODUCTIONS LIMITED

『テス』に刻印された、ロマン・ポランスキーのオブセッションとは

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“子供を失ってしまった少女”から、“子供と再会する母親”へ



 ロマン・ポランスキーはナスターシャ・キンスキーのなかに、“数奇な運命に弄ばれた悲運のヒロイン”テスを見出した。その美しさゆえに、名門ダーバヴィル家のアレック(リー・ローソン)に目をつけられ、身ごもってしまうテスを。まだ小さかった赤ん坊を病気で失い、アレックの情婦となってしまうテスを。そして、愛するエンジェル(ピーター・ファース)と一緒になるために、アレックを殺めて絞首刑に処されてしまうテスを。シャロン・テートの代わりにテスを演じられるのは、彼女しかいない!


 ポランスキーは、英語がまだ未熟で演技経験も乏しかった彼女をリー・ストラスバーグのスタジオに通わせ、徹底的に英語とアクセントを改善させる。


 「私は若く無知でした。私の環境が特殊なので、そのせいともいえます」

 「私は犠牲になる運命なの」


 映画のなかでテスが語るセリフは、まるでナスターシャ・キンスキーの実生活を引き写したかのようだった。そしてテスを誘惑するアレックは、かつて大人たちがキンスキーに囁いたであろう言葉を投げかける。


 「自分の美しさに自信を持て。(中略)君の美を世間に示せ。色あせないうちにね」

 

『テス』©1979 PATHE PRODUCTION - TIMOTHY BURRILL PRODUCTIONS LIMITED 


 ナスターシャ・キンスキーは、年端もいかない少女時代から映画でヌードを披露し、映画関係者から数々の性的な誘いを受けてきた。だがこの映画に出演することで、彼女は「服を脱がなくてもいいんだ」ということに気づかされ、ポランスキーには「人間としての尊厳を与えてくれた」とインタビューで感謝を述べている。


 だが、ロマン・ポランスキーが本当に“人間としての尊厳に満ちた人物か”といえば、クエスチョン・マークがつく。1977年、彼はジャック・ニコルソン邸で13歳の少女と淫行に及んだ容疑で逮捕されている。そして判決が下る前に、アメリカと犯罪人引渡し条約を締結していないフランスへと脱出。『テス』の舞台がイギリスのドーセットであるにも関わらずフランスで撮影が行われたのは、イギリスに入国してしまうとアメリカに身柄を引き渡される可能性があったからなのだ(映画のラストには世界遺産として知られるストーンヘンジが登場するが、美術スタッフはわざわざ正確なレプリカをつくる必要があった)。強姦罪の加害者であり、凶悪事件の被害者でもあるという、ポランスキーのアンビバレントな二重性。なおかつナスターシャ・キンスキーにとって、彼は最大の庇護者でもあったのだ。


 シャロン・テートの早すぎる死からちょうど10年後に、『テス』は公開された。ナスターシャ・キンスキーとシャロン・テートは、同じ1月24日に生まれている。彼女主演でこの作品がつくられたことは、もはや運命だったのかもしれない。ポランスキーの導きによって、キンスキーは国際的スターへの扉を開いた。


『パリ・テキサス』予告


 その後ナスターシャ・キンスキーは、ヴィム・ヴェンダース監督作品『パリ、テキサス』(84)に出演。彼女が演じるジェーンは、失踪した夫トラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)とその息子に再会するという役どころ。かつて子供を失う少女を演じたナスターシャ・キンスキーが、子供と再び巡り会う母親役を演じることに、筆者は不思議な符合を感じてしまう。そして撮影当時彼女は、妊娠4カ月だった。ナスターシャ・キンスキーは映画のうえでも、実生活のうえでも、母親となったのである。



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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発売・販売元:キングレコード 

©1979 PATHE PRODUCTION - TIMOTHY BURRILL PRODUCTIONS LIMITED 

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