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『テス』に刻印された、ロマン・ポランスキーのオブセッションとは

©1979 PATHE PRODUCTION - TIMOTHY BURRILL PRODUCTIONS LIMITED

『テス』に刻印された、ロマン・ポランスキーのオブセッションとは

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※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『テス』あらすじ

19世紀末の英国ドーセット地方マーロット村。貧しいダービフィールド家に美しい娘テスがいた。一家の生活を助けるため、テスは遠戚のダーバヴィル家に奉公に出された。この家の放蕩息子アレックに早速目をかけられたテスだったが、ある日森の中でアレックに強引に犯されてしまう。傷心したテスは実家へ戻ったが、彼女はアレックの子を身籠っていた。出産したものの赤子はすぐに病死してしまい、村の人々の冷たい視線に耐え切れなくなったテスは再び家を出て、遠く離れた酪農場で働き始めた。そこでテスは進歩的で心優しい青年エンジェルと出会い、互いに激しい恋に落ちる。ついにエンジェルのプロポーズを受け入れたテス。初めて掴んだ幸せの中で、テスはエンジェルの許しを乞うために自分の過去の過ちを包み隠さず打ち明けた。しかしその告白に激しく動揺したエンジェルは自暴自棄となり、彼女を置いて去ってしまう。最愛のひとに拒絶され、ひとり残されたテスの流転の人生が始まった…。


Index


ポランスキーが映画化に取り憑かれた、「ダーバヴィル家のテス」



 "to Sharon(シャロンのために)" 


 映画『テス』(79)の冒頭には、女優シャロン・テートへの献辞が捧げられている。タイトル・ロールのテス役は、もともとシャロンが演じるはずだった。トマス・ハーディの原作「ダーバヴィル家のテス」は彼女の愛読書で、いつか夫の映画監督ロマン・ポランスキーが素晴らしい映画にするだろう、という予感を抱いていたという。


 だが、その夢は無残に打ち砕かれる。高級住宅地ベル・エアの豪邸で、当時妊娠8ヶ月だった彼女はマンソン・ファミリーの手によって殺害されてしまったからだ。ハリウッドを震撼させた「シャロン・テート殺害事件」については、最近でもクエンティン・タランティーノが『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)で取り上げているし、すでに多くの文献や資料がたくさんあるので、その詳細については省略させていただきます。興味ある人はいろいろググってください。


 当時、夫のロマン・ポランスキーは、新作の仕上げのためにヨーロッパへ飛んでいたため無事だった。美しい若妻とお腹にいる子供を惨殺され、彼の内面には強烈な闇が広がったことだろう。しかもポーランド人の彼は、幼少期をゲットーで過ごした経験があり、母親はアウシュビッツに収容されドイツ人に虐殺されているのだ。ポランスキー本人の証言によれば、その時母親は妊娠していたという。


『テス』予告


 子供を身ごもった肉親を二度までも殺されるという、強烈すぎるトラウマ。そして『テス』もまた、美しい若妻が赤ん坊を失い、彼女自身も処刑される物語。ポランスキーが取り憑かれたようにこの小説の映画化にこだわったのは、己自身に巣食うオブセッションによるものだろう。


 シャロンの死から数年後、ポランスキーは一人の美少女に出会う。彼女の名前は、ナスターシャ・キンスキー。ナスターシャ・キンスキーに魅了されたポランスキーは、彼女主演で念願の企画『テス』の映画化に着手する。





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