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『インファナル・アフェア』往年の香港映画の魂と熱量を取り戻した、歴史的傑作 ※注!ネタバレ含みます。
2021.08.02
香港映画界が放った最後のオールスター大作
『インファナル・アフェア』は、同時期に公開されたチャン・イーモウ監督の武侠アクション『HERO』(興収2,600万HKドル)、サンドラ・ン主演のコメディ『金鶏(日本未公開)』(興収1,700万HKドル)とともに、海賊版の氾濫などで遠ざかっていた若い観客層を映画館に呼び戻すことに成功した。そして、最終的には、前年に公開された『少林サッカー』が叩き出した興収6,000万HKドルにも迫る5,500万HKドルというメガヒットを記録。さらには、公開直後には『ゴッドファーザー』(72〜90)にも匹敵する異例の“三部作構想”も発表し、91年〜97年までの空白の期間を描いた『インファナル・アフェア 無間序曲』(03)と、1作目の10ヶ月後を描いた『インファナル・アフェアIII 終極無間』(03)へと繋がっていく。
このように、香港での興行が成功するなかで、中国大陸の検閲という大きな壁が立ちはだかる。警官のヤンが命を落とし、黒社会構成員であるラウが生き残るというストーリーは、決して勧善徴悪な内容ではなかったからだ。そのため、ラウが逮捕されるエンディングも撮影されるも、作品の趣旨と異なることや3作目との繋がりも考慮し、最終的には中国の公開を断念せざるを得ないことになった(とはいえ、香港公開版の海賊版は出回ったのは言うまでもない)。
『インファナル・アフェアIII 終極無間』予告
さらには、03年初頭から世界を震撼させるSARS(重症急性呼吸器症候群)によって、香港映画界全体が大打撃を受けてしまうことに。そのため、本作のようなオールスター大作を製作するためには、中国での公開を視野に入れた、大陸資本による合作という立場をとらなくてはならない状況に陥った。つまり、“英雄的な存在として、黒社会を描くことができない”、“公安警察は有能な組織として描かれる”などなど、常に検閲を意識しながらの映画製作が必要不可欠となってしまったのである。
公開後も紆余曲折を経た『インファナル・アフェア』ではあるが、オスカー受賞作『ディパーテッド』のオリジナルであると同時に、香港映画界が最後に放ったオールスター大作として、映画史に刻まれるべき一本といえるのである。
文:くれい響
1971年、東京都出身。大学在学中、クイズ番組「カルトQ」(B級映画)で優勝。その後、バラエティ番組制作、洋泉社「映画秘宝」編集部員を経て、フリーとなる。現在は映画評論家として、映画誌・情報誌・ウェブ、劇場プログラムなどに寄稿。また、ライターとしても多岐に渡って活動しており、香港の地元紙「香港ポスト」では20年以上に渡って、カルチャー・コラムを連載中。
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