©Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019
『コレクティブ 国家の嘘』ルーマニア発のドキュメンタリー映画が日本人に問いかけること
2021.09.30
行政と病院の癒着。それを告発する人々
行政と病院、それに患者を直接治療する立場にある医師までもが、賄賂によって私腹を肥やす腐敗の実態。そして、トロンタン率いる編集者チームがそれらを突き止めていく過程を、カメラは逐一リポートしてゆく。しかし同時に、汚れ過ぎたこの国にも救世主がいることをしっかり描きだす。
病院内の恥ずべき実情を”ガゼタ紙”にリークした最初の告発者で、ブカレスト大学病院の麻酔医、カメリア・ロイウと、彼女に続く勇気ある内部告発者たち。ロイウはルーマニアの歴史を変えた人物とさえ言われている。また、辞任した保健相に代わって職務を受け継いだ後任者、ヴラド・ヴォイクレスクの存在も重要だ。彼は腐敗の実態を調査し、すべての公立病院に賄賂が蔓延していることを率直に認める。ロイウやヴォイクレスクたちは、各々の立場を顧みず悪を正そうとする。彼らはルーマニアにとっては希望の星。真に勇気ある人々だ。
『コレクティブ 国家の嘘』©Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019
まだ30代と若いヴォイクレスクは着任早々、病院長の人選基準の厳格化にも着手する。オーストリアのウィーン出身で、元々はウィーンにある銀行の投資部門の副社長だった彼は、高度な医療を受けられないルーマニアのがん患者たちのために、オーストリアやドイツから治療薬を密輸するグループを結成したことがあるという直球型の実務家だ。ヴォイクレスクはナナウ監督の要望に応えて、保健省にある執務室を撮影隊に開放することを許可した。つまり、政治の不正を暴こうとする映画に当の政治家が協力しているわけだ。
ドロドロとした腐敗地獄の中では、自然体で屈託がなく清潔感に溢れるヴォイクレスクこそが、表示に偽りのない消毒剤のようだ。そんなヴォイクレスクがウィーンに住む父親と携帯で話すシーンがある。ルーマニアの浄化を目指す息子に対して父はこう言い放つのだ。『いくら頑張ってもお前が引退するまでにルーマニアは変わらないよ。時間の無駄遣いはやめて早く帰っておいで』