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『ビルド・ア・ガール』映画を食い破る、思春期少女のパワフルな青春

© Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019

『ビルド・ア・ガール』映画を食い破る、思春期少女のパワフルな青春

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ビーニー・フェルドスタイン、現代への願いを体現する



 モラン&ギェドロイツ監督が仕掛ける“ガールズトーク”を、冒頭からラストまで牽引するのが、ジョアンナ役のビーニー・フェルドスタインだ。『レディ・バード』(17)や『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(19)などで鮮烈な存在感とコメディセンスを発揮してきた彼女にとって、本作は初の単独主演映画。ジョアンナについて、ビーニーは「こんな主人公は見たことがない」と言っている。


 ジョアンナという一人の少女を、ビーニーはさまざまな表情をもって多面的に表現した。一心不乱に夢へと突き進む若者として。あるいは、自分の可能性を信じはじめた書き手として。そして、大切なものを失った成功者として……。これまでの出演作品でも印象的だったまっすぐな瞳は、夢を追い、成功に絡め取られる少女の誠実さと危うさを、言葉以上に物語ることになる。


 一方で『ビルド・ア・ガール』のポイントは、夢を追う少女を取り込む男社会の暴力性にも言及したことだ。D&MEの一員となったジョアンナは、記者たちから「太った女の子」のレッテルを貼られ、同時に性的な視線も向けられて傷つく。その時、彼女の夢は、問題を直視しないための目眩ましになりうるものだ。社会的不均衡の中で夢を追い、のちに立場を自ら利用して快楽を味わうジョアンナだが、それは一種の自傷的行為でもある。その恐怖と孤独感、悲しみもまた、ビーニーの繊細な演技から伝わってくるものだ。



『ビルド・ア・ガール』© Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019


 原作・脚本のモランによる台詞をさらりと放ち、しばしば文字通り躍動するビーニーの演技は、思春期の内面・外面にまとわりつく複雑さをあくまでも軽やかに立ち上げていく。だからこそ本当にシリアスな部分はきちんと重たくなり、自らを知ったジョアンナが再び“自分を作る(Build a Girl)”べく動き出すパワフルさも際立った。ビーニーがインタビューで語った、「私が14歳の時にこの映画が作られていたら、きっと私の自己認識はまるで変わっていたと思う」という言葉は、その演技が目指したところを明示するものだろう。


 ビーニーに心を打たれたのは、モランも同じだったようだ。なにしろ、本作の脚本はビーニーが起用された時点で90%完成していたのだが、モランは「ビーニーにこんな台詞を言わせたい」といった思いから再び脚本に手を加えたのである。映画の終盤、ビキニを着たジョアンナが男たちに向かって口にする言葉はその代表的なものだ。


 その場面ののちにジョアンナは、ある意味で映画や物語のセオリーを食い破るような、そしてジョアンナの人物造形からも少々外れたような言葉を口にするようになる。そこにあるのは、モランとビーニーの共犯関係から生まれた、映画の物語を飛び出した情熱そのものだ。それはまさしく、ビーニーが語った「私が14歳の時にこの映画が作られていたら……」という言葉に通じるもの。あるいは作り手たちが、1993年のイギリスではなく、現代の世界に向けた願いだろう。


[参考資料]

・『ビルド・ア・ガール』プレス資料

Caitlin Moran on How to Build a Girl: "I always want everything I do ultimately to be useful"

It's Not Just A Phase: 'How To Build A Girl' Is About A Teen Still Figuring It Out

With How To Build A Girl, Beanie Feldstein Takes The Lead



文:稲垣貴俊

ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。



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作品情報を見る



『ビルド・ア・ガール』

10/22(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

配給:ポニーキャニオン、フラッグ

© Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019

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