© Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019
『ビルド・ア・ガール』映画を食い破る、思春期少女のパワフルな青春
夢を追う少女の「ガールズトーク」
主人公・ジョアンナは、いわゆる“変わり者”だ。自意識と才能を持て余し、自室の壁に貼った偉人たちのピンナップを想像上の友人(イマジナリー・フレンド)としている。「定番のヒロインと私はぜんぜん違う」という自己認識も、ともすれば思春期ならではの自意識の表れと言えるかもしれない。しかし、父親に似てはみ出し者、兄に似て“ソフトな革命家”めいた一面をもつジョアンナは、それゆえ自分の夢に対してはとことんひたむきだ。
映画前半を代表するシーンに、兄・クリッシーにロック批評を勧められたジョアンナが、(まったくロックらしからぬ)ミュージカル『アニー』の名曲「Tomorrow」の批評を書く場面がある。カセットテープから曲が流れ、ジョアンナがタイプライターを叩きはじめれば、たちまち世界からは自分の周囲が消えてしまったかのよう。そこにはジョアンナと、タイプライターと、音楽しかない。冒頭にも記した通り、これはきっと多くの人に通じる感覚だろう。
『ビルド・ア・ガール』© Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019
ジョアンナの純粋さはD&MEの記者たちに届き、彼女の熱弁は未来を切り開く。しかしその時、まだ彼女は自分の追いかける夢の中にいる。辛口批評家としてミュージシャンに鋭い舌鋒を向ける時も、おそらくジョアンナはその夢から覚めていない。しかし、自分と夢だけが存在する世界にひたっている時間が延びるほど、自分と社会との間にある距離は広がっていく。それゆえ彼女が過ちに気づいた時、その小さな世界における失敗はあまりにも大きく、ジョアンナ自身にのしかかることになる……。
原作・脚本のキャトリン・モランは、この思春期ならではの夢と成功と挫折の日々を、時に物語そのもののドライブを利かせながら、時に下ネタを含むキツめのブリティッシュ・ユーモアやポップカルチャーの引用を交えながら語っていく。監督のコーキー・ギェドロイツは本作が長編映画デビューとなったが、もともとケイトリンの大ファンだったこともあり、この企画との相性は絶妙だった。
本作のタッチについて、モランは「男性の監督だったら、生理やセックスシーンのイメージを一から説明しないといけないし、ガールズトークの言語をいちいち翻訳して伝えないといけません。だけど女性の監督ならそんな手間はいりません」と述べた。この“ガールズトーク”と形容された語り口こそが、『ビルド・ア・ガール』という作品の手触りを唯一無二のものにしている。