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『カセットテープ・ダイアリーズ』ブルース・スプリングスティーンの歌詞が少年の世界を更新する、爽快80’s青春映画

(c)BIF Bruce Limited 2019

『カセットテープ・ダイアリーズ』ブルース・スプリングスティーンの歌詞が少年の世界を更新する、爽快80’s青春映画

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『カセットテープ・ダイアリーズ』あらすじ

イギリスのルートンの小さな町で暮らすパキスタン系少年のジャベドは16歳。夏のアルバイトを終え、SONYのウォークマンで流行のペット・ショップ・ボーイズを聴きながら自転車を走らせる彼は、この9月からハイスクールに入学する。誕生日が同じ、幼なじみの少年マットは恋人ができ、日々充実した青春を楽しんでいる。だがジャベドは孤独に鬱屈を募らせていた。保守的な町の人からの移民への偏見や、パキスタン家庭の伝統やルールから抜け出したくてたまらない彼。特に古い慣習を振りかざす父親マリクには内心強い反発を感じていた。人種差別や経済問題、不安な政情に揺れる時代をジャベドなりに反映させた詩を書いているが、まだ本当の“自分の言葉”を見つけられずにいた。だがそんなある日、モヤモヤをすべてぶっ飛ばしてくれる、ブルース・スプリングスティーンの音楽と衝撃的に出会い、彼の世界は180度変わり始めていく―。


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歌詞が主人公を駆動する、類まれな青春映画



 1987年、イギリス南部の地方都市に暮らす少年ジャベドは、友人のすすめで、初めてブルース・スプリングスティーンを聞く。雷に打たれた様な衝撃。裕福とは言えないパキスタン移民の子であるジャベドはスプリングスティーンの歌詞によって心に閉じ込めていた思いを開放し、父や社会が押し付ける価値観に染まらない人生を選びとっていく。


 原題は『BLINDED BY THE LIGHT』。アメリカの伝説的ロックシンガー、ブルース・スプリングスティーンのデビュー作、「アズベリー・パークからの挨拶」(73)収録の「光で目もくらみ(BLINDED BY THE LIGHT)」をそのままタイトルにしている。スプリングスティーンは、地方都市の鬱屈した人々、社会の片隅に追いやられた人間の哀切を歌詞に込める。そんな彼の歌詞が、1人の少年の人生を揺さぶり、やがては周囲の人間をも変えていく成長譚は、気恥ずかしいほどに瑞々しく、青春映画として端正で高いクオリティーを備えている。


ブルース・スプリングスティーン「BLINDED BY THE LIGHT」


 地方都市に住む冴えない少年のビルドゥングスロマンというなら、過去にも優れた作品は数多あるが、本作はそんな先行作品群からも頭一つ抜けだしている。その理由は、ひとえにスプリングスティーンの歌詞を前面に押し出した演出であり、それが見事にテーマと連動しているからだろう。


 随所で流れるスプリングスティーンの楽曲の歌詞が、主人公ジャベドの気持ちとシンクロしながら物語を加速させ、観客を主人公の内面へと誘っていく。これは、音楽をテーマにした映画では、よくある手法と言えるが、本作では、そこに今までなかった演出を盛り込むことで、鮮烈な印象を与えることに成功している。



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