『プライベート・ライアン』以前・以後。戦場描写に革命を起こしたスピルバーグ

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2018.03.21尾崎一男

『プライベート・ライアン』以後のハリウッド

　『プライベート・ライアン』が登場してからのハリウッド戦争映画は、のべつまくなしに「本作以前・以後」の傾向が明白に浮かび出たものとなった。日本軍の真珠湾攻撃を若き米兵の視座から捉えた『パール・ハーバー』（01）や、ヴェトナム戦争におけるアメリカ軍最初の局地戦［イア・ドランの戦い］を克明に描写したメル・ギブソン主演作『ワンス・アンド・フォーエバー』（02）など、そのどれもが『プライベート・ライアン』の強いビジュアル面での影響をにじませていたのである。

　また、こうした「プライベート・ライアン症候群」ともいえる傾向に特に強い反応を示したのは『エイリアン』（79）『ブレードランナー』（82）のリドリー・スコットである。彼が2000年に発表した剣闘士史劇『グラディエーター』（00）では、ローマ帝国軍のゲルマニア戦役をオマハ・ビーチさながらのカメラアイで凄惨に捉え、それに次いで米軍のモガディシュ急襲作戦の失敗を描いた『ブラックホーク・ダウン』（01）では、約1時間半に及ぶノンストップの戦闘シーンを創り出している。

『ブラックホーク・ダウン』予告

　もっとも、この剥き出しの対抗心は、リドリーが自身のお株を奪われたことに起因するものだ。彼はスピルバーグに先んじること1年前、『Ｇ.Ｉ.ジェーン』（97）の戦闘シーンで、カメラズームのイン＆アウトを小刻みに繰り返す“ジッター・ズーム”という手法を用い、戦場描写のリアルな視覚表現にいち早くアクセスした。しかしそんな実験的手法も作品の不評に隠れて話題には上らず、不幸にもスピルバーグの後塵を拝する形となってしまったのだ。それでもリドリーは、スピルバーグが成し得た偉業に心酔し、心からそれを讃えている。

　「スティーブンは驚くべき表現の領域に到達した。我々も早く、そこに追いつかなければならない」*

　時代を経てスタンダードとなった感のある『プライベート・ライアン』の戦場描写。しかし　その誕生はライバル作家をかのように奮い立たせたのである。そして現在に至るも嚆矢としての勢いと衝撃を保ち続け、他の追随を許すことはないのだ。

*Douglas Bankston.May.2000.American Cinematographer Magazine.Hollywood:ASC.

文：尾崎一男（おざき・かずお）

映画評論家＆ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット［映画ガチンコ兄弟］を組み、TVやトークイベントにも出没。

Twitter: @dolly_ozaki

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