(c)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.
アスペクト比が主張する『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』製作の真意
2018.04.10
※2018年4月記事掲載時の情報です。
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』あらすじ
1971年、ベトナム戦争が泥沼化し、アメリカ国内には反戦の気運が高まっていた。国防総省はベトナム戦争について客観的に調査・分析する文書を作成していたが、戦争の長期化により、それは7000枚に及ぶ膨大な量に膨れあがっていた。ある日、その文書が流出し、ニューヨーク・タイムズが内容の一部をスクープ。ライバル紙のニューヨーク・タイムズに先を越され、ワシントン・ポストのトップでアメリカ主要新聞社史上初の女性発行人キャサリン・グラハムと編集主幹ベン・ブラッドリーは、残りの文書を独自に入手し、全貌を公表しようと奔走する。真実を伝えたいという気持ちが彼らを駆り立てていた。しかし、ニクソン大統領があらゆる手段で記事を差し止めようとするのは明らかだった。政府を敵に回してまで、本当に記事にするのか…報道の自由、信念を懸けた“決断”の時は近づいていた-。
Index
- 近年のスピルバーグでは異例の、ビスタで製作された『ペンタゴン・ペーパーズ』
- もともとワイドスクリーンを愛したスピルバーグ
- ワイドからビスタへの転向を図った80〜90年代
- 2000年代、ワイドスクリーンへの回帰と記憶装置としての映画形式への徹底
- なぜビスタだったのかーー形式主義ではない、折衷主義の証
近年のスピルバーグでは異例の、ビスタで製作された『ペンタゴン・ペーパーズ』
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』をご覧になった観客の中で、特にスティーブン・スピルバーグ作品に精通している方は「おや?」と疑問に思われたことだろう。それは本作のアスペクト比(画角)が、1:1.85のビスタサイズだったからだ。
ミュンヘン五輪テロに端を発するモサドの報復を描いた『ミュンヘン』(05)以降、スピルバーグは最新作『レディ・プレイヤー1』(18)を含む8本の監督作品を、すべて横長サイズのワイドスクリーン(1:2.35〜1:2.39)で手がけている。しかし『ペンタゴン・ペーパーズ』はこの法則から逸脱し、ビスタで撮られているのだ。
『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(c)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.
もともとワイドスクリーンを愛したスピルバーグ
スピルバーグのアスペクト比に対する好みはキャリアの始めより明白で、自身初の商業長編作『続・激突! カージャック』(74)からワイドスクリーンを展開させてきた。初期の代表タイトルである『ジョーズ』(75)や『未知との遭遇』(77)など、横幅に拡がるこのフォーマットが各作を迫力あるものにしているのだ。
このワイドスクリーンに対するこだわりを後年、監督自身はこう語っている。「僕はワイドが好きで、画面の隅々にまで情報をちりばめて作っている。しかしテレビで放送されると、画面の左右がカットされる。それは映画監督として最も許されないことだ」(*1)