※2019年4月記事掲載時の情報です。
Index
- 怪優が覚悟を決めた挑んだ“影の大統領”チェイニー
- 特殊メークアップはスタート地点に過ぎない
- いかにあらゆる情報を吸収し、チェイニーの内面を形作るか
- ポジティブな視点で人物像に迫る。ベールが投げかけた提言とは?
- ベールの役作りがもたらした予想外の顛末
怪優が覚悟を決めた挑んだ“影の大統領”チェイニー
世の中には怪優と呼ばれる人たちがいる。徹底した役作りで知られるクリスチャン・ベールはその筆頭だろう。彼の演技を見ていると、我々はもはやベールが役を演じていることすら忘れ、そのキャラクターの生き様や立ち居振る舞いにただただ圧倒されてしまう。
『マシニスト』(04)で体重を30キロ近く落とし幽霊のごとくおどけてみせたかと思えば、『バットマン・ビギンズ』(05)では一転して、別人かと思えるほど筋骨隆々な肉体を作り上げた彼。いや、外見だけではない。彼は内面においても徹底した役づくりを行うことで知られる。そうやって完全に役になりきることで、演じることの限界を果敢に超えていくのだ。
そんなクリスチャン・ベールにとって『バイス』は新たな挑戦となった。アダム・マッケイ監督は自らが脚本を執筆している頃から、主演にベールを想定していたという。彼らは前作『マネー・ショート』(15)でも組んだ仲だ。お互いの考え方や手の内は知り尽くしている。だからこそマッケイは、ベールがこの恐れを知らない企てに「乗る」と確信したのだろう。
主人公は、ブッシュ政権下で「影の大統領」とも呼ばれ、アメリカを理由なきイラク戦争へと突き進ませた張本人とも言われる元副大統領ディック・チェイニー。タイトルの「VICE」は、副大統領、あるいは悪徳という意味すら包含する。
そこらの役者なら恐れをなして逃げ出してもおかしくない役柄だが、ベールは脚本に目を通して「本気なのか?大変な作業になるぞ」と言いながらも、マッケイの読み通り危険な賭けに乗った。この瞬間から彼の俳優魂がかつてない火力で沸騰を始めていくこととなる。