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『バイス』監督の命まで救った!?クリスチャン・ベールの徹底した役作り
ベールの役作りがもたらした予想外の顛末
おっと、忘れていた。最後に命を救った話で締めねばならない。実は『バイス』の製作中に思いがけない緊急事態が起こった。脚本執筆や撮影中に不規則な生活習慣を続けていたアダム・マッケイ監督は、ポスプロ中になんとか体質改善しようとトレーニングに励んでいたという。だがその時、異変を感じた。なぜか腕に痛みが生じ、さらに強い吐き気に見舞われたのだ。
彼は「心臓発作だ!」と直感し、即座に家庭内で取りうる対処を行い、妻に連絡し救急車を呼んでもらった。今から思うと、一瞬の判断が生死を分けたことになる。
この時、マッケイの頭の中にはクリスチャン・ベールがかつて話してくれた言葉が蘇っていた。彼が演じたチェイニー元副大統領は心臓発作で何度も緊急搬送されたことがある。そのためベールは自発的に心臓外科医の元を訪れ、数々の初期症状や家庭内で取りうる応急処置についてもリサーチを重ね、その内容を事細かくマッケイに聞かせてくれていたのだ。
『バイス』(c) 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.
もしマッケイが『バイス』を作らなかったら?チェイニーという人物に興味を持たなかったら?ベールがオファーにYESと答えなかったら?役作りで知り得た情報を教えてくれていなかったら?
つくづく運命とは、思いがけない瞬間の積み重ねである。発作に関する知識が脳裏をよぎったおかげで、彼は瀬戸際のところで一命を取り留めた。文字どおり、ベールの徹底した役作りがマッケイ監督の命を救ったのである。それから二日後、彼はベールに電話して「君に救われたよ」と感謝の言葉を伝えたという。
世の中には怪優と呼ばれる人たちがごまんといる。ただ、その役作りが人命を救った例は、クリスチャン・ベールの件を置いて他にないのではないか。ここまでくるともはや神がかり的だ。この逸話はきっと、我々がベールの伝説を紐解くたび、末長く語り継がれていくことだろう。
<参考記事URL>
https://www.nytimes.com/2018/11/29/magazine/adam-mckay-dick-cheney-vice.html
https://www.rollingstone.com/movies/movie-features/adam-mckay-vice-interview-769355/
https://www.slashfilm.com/adam-mckay-interview-vice/
https://www.nytimes.com/2018/12/26/movies/vice-cheney-prosthetics-movies.html
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『バイス』
4月5日(金)全国ロードショー
提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド
公式サイト: http://longride.jp/vice/
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※2019年4月記事掲載時の情報です。