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『バイス』監督の命まで救った!?クリスチャン・ベールの徹底した役作り
特殊メークアップはスタート地点に過ぎない
では、ベールはいかにしてチェイニーと化したのか? さすがの彼も、今回ばかりは素の体のままで役になりきることはできなかった。そもそも彼らは顔の形がまるで違う。そこで登場するのが特殊メークアップだ。
今やSF映画のみならず、政治ドラマや歴史ドラマでもこの特殊技術が違和感なく盛り込まれる時代である。その表現性は精緻を極め、シリコンで顔の型をとってホンモノそっくりに仕立てたものを役者に被らせれば、誰にだって化けられる。ただ、問題はそこからだ。表面的なそっくりさんで終わるか、それ以上の唯一無二の役柄を作り上げるか。全ては俳優やスタッフたちの志にかかっている。
『バイス』(c) 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.
『バイス』でこの重責を担ったグレッグ・キャノン(『ドラキュラ』(92)、『ミセス・ダウト』(93)、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)に続き、本作でもオスカー受賞)もその重要性はきちんと理解していた。そのため、彼はベールと共に6か月に渡って試行錯誤を繰り返し、どの状態がベストなのかを細かく調整していった。
ここで二人が気をつけたのは、「ベールの存在が決してチェイニーの陰に隠れてしまわないこと」だったという。演じている俳優が誰なのか分からなければ、わざわざベールが演じる意味などない。その意味でもメークアップはスタート地点に過ぎないのであって、肝心の“主人公チェイニー”は、あくまでそこから俳優クリスチャン・ベールが持ちうる全てを投げ打ってクリエイトしていくものなのである。