(C)2001 PANDORA INC.ALL RIGHT RESERVED
“正統な続編”企画が期待される『ドニー・ダーコ』ディレクターズ・カットが解き明かす秘密とは!?※注!ネタバレ含みます。
『時間旅行の哲学』
さて、『時間旅行の哲学』とは、ドニーたちが通う学校でかつて教えていたこともあるロバータ・スパロウが書いた本のことだ。オリジナル版でも会話の中で少しだけ本の中身に触れられていたが、ディレクターズ・カット版ではシーンとシーンの間に挿入されたり、映像にオーバーラップされたりして本のテキストがたびたび現れる。
最初に登場するのは、中盤で科学の教師がドニーに『時間旅行の哲学』を渡すシークエンスの後。この挿入部分で示される「第1章 接宇宙」では、安定した主宇宙(Primary Universe)でごくまれに時間という四次元の構造が崩れたときに接宇宙(Tangent Universe)が生じること、不安定な接宇宙は数週間しか続かないこと、接宇宙が崩壊すると主宇宙の内部にブラックホールができてすべての存在が消滅することが説明される。フランクと名乗る銀色のウサギ男がドニーに「世界の終わりまで28日6時間42分12秒」と告げるのは、ごくまれにしか起きないはずの接宇宙ができてしまい、それが4週間後に崩壊することを意味する。
次は、教室でドニーがグレッチェンの横に着席する追加シーンにオーバーラップされる「第2章 水と金属」。水と金属は時間旅行の主要素であって、水は主宇宙と接宇宙をつなぐタイムポータルを作る際に防御する要素であり、金属は時間旅行を構成する要素であることが説明される。この段階で、ドニーが深夜の学校に忍び込み、水道管を壊して校舎を水浸しにして、さらに校庭の犬顔のブロンズ像に斧を打ち込んだことが、時間旅行に必要なプロセスであったことが示唆される。
『ドニー・ダーコ』(C)2001 PANDORA INC.ALL RIGHT RESERVED
次も追加されたシーンで、ドニーとグレッチェンがアーケードゲームで遊んでいる場面にオーバーラップされる「第7章 操られる生者」。これは、使命を受ける生者(Living Receiver)が人工遺物を主宇宙に戻す行為を、周囲でアシストする人々のことを指す。操られる生者は身近な人たちであり、理不尽な振る舞いや暴力行為を通じ、意図せずして自分たちを消滅から救うことになる。使命を受けた生者とはもちろんドニーのことで、人工遺物はドニーの家に落下したジェットエンジンを指す。フランクに導かれるドニーだけでなく、周囲の人々もまた大いなる存在に操られているということだ。
続いては、ドニーとグレッチェンがロバータ・スパロウの家を訪れるシーン。この後に「第4章 人工遺物と生者」のテキストが挿入され、人工遺物が金属でできていること、人工遺物の出現は接宇宙が生じた最初の兆候であること、生者がこれに大きな関心をもって回収することが説明される。なお、ここのテキストにオーバーラップされるのは、ドニーの家に落下したジェットエンジンを米連邦航空局(FAA)が回収している序盤の場面だ。これ以上の補足は不要だろう。
次は、ドニーがベッドでルービックキューブを回している場面の後に、「第6章 使命を受ける生者」が挿入される。ここでは、使命を受ける生者は人工遺物を主宇宙に送り返すために選ばれること、四次元の能力を授かることなどが説明される。ここではまた、肉体的および精神的な力も強化されることが語られている。ドニーがブロンズ像の頭に斧を打ち込むことができたのも、この特別な力のおかげだ。
物語はいよいよ終盤へ。映画館の場面の後で挿入される「第10章 操られる死者」では、接宇宙で死んだ人間は四次元構造を介して、使命を受ける生者とコンタクトできるようになることが説明される。映画館ではフランクが銀のウサギの面を外し、右目が撃ち抜かれた素顔をさらす。そう、フランクは操られる死者として時をさかのぼり、ドニーを導いているのだ。
『ドニー・ダーコ』(C)2001 PANDORA INC.ALL RIGHT RESERVED
ハロウィン・パーティーが催されているダーコ家に、ドニーを受け持つ精神科医が電話して留守電にメッセージを残すシーン。この後に挿入される「第9章 エンシュアランス・トラップ(Ensurance Trap)」。このフレーズを簡潔に訳すのは難しいが、「確実にするための仕掛け」といった意味だ。操られる死者がエンシュアランス・トラップをセットし、使命を受ける生者はこれを使い人工遺物を主宇宙に戻して世界を救わなくてはならない。
ジェットエンジンが落下するシーンが再び描かれた後、最後の「第12章 夢」が挿入される。接宇宙で操られた人々が主宇宙に戻ってきた後、接宇宙での体験を夢の中でかすかに思い出す。それは、実際には起きない「未来の体験」についての“記憶”だ。ここのテキストから、その後に続く『Mad World』が流れる印象的なモンタージュで、自己啓発コーチのジム・カニングハム(パトリック・スウェイジ)がさめざめと泣き、フランクが右目を押さえる理由が分かる。