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サイバーSFの革命児『マトリックス』の先進的視覚スタイルを回想する

(c)Photofest / Getty Images

サイバーSFの革命児『マトリックス』の先進的視覚スタイルを回想する

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模倣を生んだバレットタイム



 また、こうして異世界の創造に説得力を与える映像的な試みは、シネマトグラファーだけでなくVFXにおいても実施された。それが、アクション中の被写体が静止状態になり、カメラ視点がそれを囲むようにグルグルと移動する「バレットタイム」だろう。


 同手法は「タイムスライス」もしくは「フローズンタイム」と呼ばれて試験的に存在していたが、本作の視覚効果スーパーバイザーを務めるジョン・ゲイターが、特殊視覚効果カンパニーのマネックス・ビジュアルエフェクトを率いてそれを発展させたものだ。無数のスチールカメラを、プレビズ(ビデオコンテ)によってシミュレートされたパターンに合わせて置き、連続撮影したものにCG背景との合成やフレーム補間をデジタルでおこない、映画で実用できる精度を有したショットを作り上げている。これは冒頭でトリニティーが刺客に蹴りを繰り出したり、ビルの屋上でネオがエージェントからの銃撃を避ける場面で成果を見ることができる。



『マトリックス』(c)Photofest / Getty Images


 この一連のプロセスが「バレットタイム」と呼称され、2000年の第72回米アカデミー賞視覚効果部門を受賞。後続する映画やCMなどに用いられ、数えきれないほどの模倣ショットを生み出した。だが起点となった『マトリックス』のインパクトを凌ぐものなど、存在したとは言い難い。


 このように『マトリックス』を象徴する優れた視覚的要素の数々が、18年ぶりにシリーズ起動となった最新作『マトリックス レザレクションズ』ではどのように進化しているのかが興味深い。予告編を見る限りでは、技術的にやや拙かった部分もナチュラルに本編に溶け込んでいるし、少し時代がかったように感じられる無重力アクションにも、決して違和感を覚えることはない。『マトリックス』を凌ぐスタイルの更新は、やはり『マトリックス』によって成し遂げられるのだと大いに実感させてくれるのだ。


 なお現在『マトリックス』が、『マトリックス レザレクションズ』の公開を記念し、IMAXデジタル・シアターで上映中だ(日本では2021年12月10日~16日の期間限定公開)。過去にシリーズ第2作目『マトリックス リローデッド』(03)と、第3作目『マトリックス レボリューションズ』(03)はIMAXにおける上映実績があるが、1作目は初となる試み。この機会に是非体験したいものだ。


参考:

Christopher Probst, ASC “American Cinematographer”April 1999

シネフェックス日本版23 トイズプレス:刊(1999年12月)



文:尾崎一男(おざき・かずお)

映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。

Twitter:@dolly_ozaki



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