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『スティルウォーター』いま最も必要な物語、この複雑な世界への〈処方箋〉

© 2021 Focus Features, LLC.

『スティルウォーター』いま最も必要な物語、この複雑な世界への〈処方箋〉

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『スティルウォーター』あらすじ

殺人罪で服役中の娘を持つアメリカ人のビルが、その無罪を信じてフランス・マルセイユで事件の真相を追う__。


Index


『スポットライト』トム・マッカーシー監督の新たな挑戦



世界は複雑である。

その世界を構成している私も、あなたも、同じく複雑である。


 『スポットライト 世紀のスクープ』(16)のトム・マッカーシー監督とマット・デイモンがタッグを組んだ『スティルウォーター』は、殺人罪で服役中の娘を持つアメリカ人の父親が、その無罪を信じてフランス・マルセイユで事件の真相を追うスリラー映画だ。同時に、人々が深い溝によって隔てられた、現代社会への〈処方箋〉にもなっている。


『スティルウォーター』予告


 デイモン演じる主人公・ビルは、アメリカ・オクラホマ州のスティルウォーターに暮らす肉体労働者。もとは石油掘削作業員だったが、現在は失業中であり、竜巻被害のガレキ撤去などに従事し、経済的に豊かな生活を送れているとは言いがたい。故郷を離れた娘・アリソン(アビゲイル・ブレスリン)は同性愛者で、マルセイユにて恋人を殺害した罪に問われ、懲役9年の刑に服していた。セクシュアリティゆえに事件はセンセーショナルに報じられたが、アリソンは有罪判決が出たあとも獄中から無罪を主張。定期的にマルセイユを訪れるビルに、弁護士と面会したいと懇願する。


 しかしながら、アリソンの再審は現実的ではなかった。アリソンが主張する真犯人の手がかりは根拠薄弱で、真犯人と思しき男・アキムを探して証拠を得ようにも、ビルは探偵を雇える経済状況にない。それでも娘から信頼されたいビルは、偶然出会ったシングルマザーのヴィルジニー(カミーユ・コッタン)の協力を得て調査を始めるが、文化と言語の違いが障害として立ちはだかった。やがて、ビルはヴィルジニーと彼女の娘・マヤ(リル・シャウバウ)との距離を少しずつ縮めていくが……。



『スティルウォーター』© 2021 Focus Features, LLC.


 監督・脚本のマッカーシーは、『スポットライト』以前から本作の企画に着手しており、10年におよぶ構想期間を経て作品を完成させた。インスピレーションのひとつは、2007年にイタリアで発生したアマンダ・ノックスの事件。アメリカ人学生のノックスは、ルームメイトを殺害したとして逮捕されたのち、一貫して無実を主張し、2015年には無罪が言い渡されている(Netflixのドキュメンタリー作品『アマンダ・ノックス』などに詳しい)。


 異郷で逮捕された学生と、真相がわからない殺人事件。実際の事件からふたつのモチーフを活かす形で、マッカーシーは映画独自の物語を構築した。脚本に加わったのは、ジャック・オーディアール作品で知られるトーマス・ビデガン&ノエ・ドゥブレ。まったく新しいコラボレーションによって生まれた本作は、前作『スポットライト』と同じく“調査”の物語である。ビルは事件の真相を知るため、アキムの居場所を求めてマルセイユの街をさまようのだ。





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