ジョン・ヒューズとモリー・リングウォルド、奇妙な符号
辛辣な映画評論で知られたポーリン・ケイルは、“女優モリー・リングウォルド”の魅力を「カリスマ的なノーマルさ」と評している。そんな「ノーマル」=「普通」な雰囲気に魅せられた映画人は、ジョン・ヒューズだけではなかった。ナタリー・ウッドやジュリー・クリスティ、ダイアン・キートンやイザベル・アジャーニ、さらにはマドンナまで、数々の共演女優と浮名を流していたウォーレン・ベイテイもそのひとり。
親子(下手をすれば祖父と孫)ほどの年齢差があるベイテイはモリーに惚れ込み、自身のプロダクションで彼女とロバート・ダウニーJr.が共演した『ピックアップ・アーチスト』(87)の製作総指揮を担当するに至る。実はこの映画、もともとはウォーレン・ベイテイ主演で脚本が書かれていた企画だった。『すてきな片想い』が公開された1984年にベイテイが脚本を買取り、彼が演じるはずだった役を若者へと変更。撮影現場では、モリーの出演パートを監督のジェームズ・トバックに代わってベイテイが演出していたという驚きの舞台裏を、モリーが述懐している。
『すてきな片想い』(c)Photofest / Getty Images
ジョン・ヒューズとモリー・リングウォルドのプロフィールには奇妙な符号がある。ジョンは1950年、モリーは1968年、共に2月18日生まれなのである。その偶然を劇中へ密かに刻むべく、サマンサを迎えるジェイクの車のナンバーが「21850」となっている。それから時を経た2000年代、『すてきな片想い』の続編が企画されているとのアナウンスがあった。幾度となく企画された続編のオファーを断り続けていたモリーだったが、16年後を描いた『32 Candles』の脚本には興味を示していたという。しかし、残念ながらこの企画は未だ実現していない。
ジョン・ヒューズは、監督作『フェリスはある朝突然に』(86)や、脚本を担当した『恋しくて』(87)を最後に、ティーンエイジャーを描く作品から身を引いた。やがて、『ホーム・アローン』シリーズや『ベートーベン』(92)シリーズなど、ファミリー向け作品の製作や脚本を手がけるヒットメイカーへと転身。同時に表舞台からも身を引き、メディアへの露出を控えるようになっていた。そして、2009年8月6日。散歩中だったヒューズは、心臓発作で急逝してしまう。
その翌年に開催された第82回アカデミー賞授賞式では、ジョン・ヒューズの功績を讃えるトリビュートが行われている。壇上には彼の作品に出演した俳優たちが集結。その中には、モリー・リングウォルドとアンソニー・マイケル・ホールの姿も。『すてきな片想い』の公開から、ちょうど四半世紀が経過していた。
【出典】
「モリー・リングウォルド」(芳賀書店)
『Sixteen Candles』 Blu-ray (ARROW VIDEO) SPECIAL FEATURES
・「Sixteen Candles」 Box Office Mojo
・THE NEW YORKER 2018.4.6 WHAT ABOUT “THE BREAKFAST CLUB”?
文:松崎健夫
映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。
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